【どろんこ会を支える人々vol.3】保育理念を設計で表現 一級建築士 房前 寿明さん
2018.06.14
どろんこ会グループでは、社外の皆さんや地域の皆さんとも手を携え、子どもたちを見守り育てる「保育者」の輪を大切にしていきたいと考えています。どろんこ会の数多くの園舎を設計している、ユニップデザイン株式会社代表で一級建築士の房前寿明さんも、私たちにとって大切な保育者仲間のお一人です。今回は房前さんに、どろんこ会の園舎を設計することになったきっかけや、設計する際に心がけていることなどを伺いました。
「にんげん力を育てる」保育環境を、建築士の立場から創意工夫していきたい
――どろんこ会の園舎を設計するようになった経緯についてお聞かせください。
出会いは5〜6年ほど前です。当時のどろんこ会は駅ビルを中心に保育園を展開されていましたが、この頃から建築タイプの園舎が増えていきます。その初期の頃、内装を担当していた方から「一緒にやってくれませんか?」とお声がけいただいたのがきっかけです。
私は独立する前、科学館や博物館、水族館など子どもが多く訪れる公共建築を手がけている建築事務所に在籍し、「子ども環境とはどうあるべきか」ということに常に目を向けていました。また、独立してからも幼稚園の設計をした経験があり、その園は大人の価値観で工業的なものを押し付けるのではなく、どちらかというと温かみのある自然素材を使った園舎を造ろうと考え、木をたくさん使った設計にしました。
こうした過去の実績とともに新しい園舎をご提案したところ、気に入っていただけたのです。そして完成したのが2013年4月に開園した東京都板橋区の「板橋仲町どろんこ保育園」です。それ以降、これまでに13~14軒の園舎を設計してきました。
――園舎を設計する上で重視していることや心がけていることは何ですか?
1番に安全面、2番にどろんこ会の保育環境、3番に建物の美しさです。毎回、子どもたちにとってどんな園舎がいいかを考え、その上で見た目にも美しい建物にしようと模型やCGを使って緻密な作業を積み上げていきます。1つとして同じ土地はないので、コンビニのようにコピペできるものではなく、その土地の立地条件や特性などを把握してから設計していきます。
――黒い外壁や大きなガラスがとても印象的で、かっこいい園舎ばかりですね。
ありがとうございます。
どろんこ会で一番最初に設計することになった時、埼玉県の「朝霞どろんこ保育園」を見学しました。すると、「朝霞どろんこ保育園」は里山にある古民家をイメージしたことや、『大きな一軒家で子どもたちが遊びまわる』というのが理念の一つとしてあるということを知りました。そこで、園舎は奇抜なものではなく、できるだけ自然になじむ素材で造ろうと考えたのです。
黒い外壁は古民家をイメージしたもので、基本的には天然木を黒色(厳密にいえばこげ茶色)に塗装しています。実際に園舎を見たことがない方は「え、黒?」と驚かれるのですが、木を使っているので落ち着いた雰囲気に仕上がっています。使っていくうちに一部傷ついたり擦れたりしてきますが、それはそれで本物の素材なのでいい味になっていく、つまり『経年優化』していくのです。
大きなガラスももちろん意図があってのことです。どろんこ会の基本的な考えとして、より活発に活動する3〜5歳児の部屋は園庭に近い1階に配置する、というものがあります。そのため、0〜2歳児の部屋は上の階に上がることが多い。でも0〜2歳児も園庭に近い方がいいし、樹木やお母さんたちが迎えに来るところも見えた方がいい。そこで、園庭側は下から上までガラスにしたデザインを提案しています。もちろん不審者対策も考えなければならないので、外から見えすぎないよう、木などを植えて自然な形で視線を遮るように考えています。
設計は大変なこともたくさんありますが、完成した園舎で子どもたちが元気に、ニコニコ駆け回っているのを見るとホッとしますし、たいへん感慨深いですね。
――今後、造ってみたい園舎のイメージはありますか?
最近、どろんこ会から提案されたのが、発達支援の施設と保育園が合併したもの。つまり、同じ屋根の下で障がい児と健常児が一緒になって過ごせる施設です。これは私もかなりいいなと思っていて、まだ敷地は決まっていないのですが勝手に土地を設定して案を練っています(笑)。こういう施設が増えていくことは、子どもたちの未来を考えるときっといいことなんだろうなと夢見ているところです。
どろんこ会の「自然と触れ合いさまざまな体験を通してにんげん力を育てる」という考え方には私も大変共感していますし、これからの未来を創っていく人間を育てる上でとても大切なことだと思っています。私自身、保育環境を作るお手伝いができて、良い仕事に恵まれているなと感謝しています。これからもどろんこ会が目指す保育環境を、一緒に創意工夫していければと思っています。そして子どもたちやどろんこ会の皆さんと一緒に、私自身も成長していきたいですね。
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