「自分で選び、食べること」とは?食育を通して育みたい力
2019.06.27
昨年行われた保育スキル講座「食での関わり・食の場面での関係性 ジブンで食べる・ジブンで決める~子どもの気持ちに寄り添う」には、多くの職員が遠方からも駆けつけ、大好評の講座でした。 今年も食育をテーマにした講座「ジブンで決める・ジブンで選ぶ・ジブンで食べる」を開講。昨年とは少し違った視点を取り入れつつ、食育を通して育みたい子どもの力についてあらためて考え合いました。
大人と子ども、それぞれにとっての「食事」から見えてくるもの
今回の講座は、子ども発達支援センターつむぎ浦和美園(埼玉県さいたま市)の古川施設長、つつじヶ丘どろんこ保育園(東京都調布市)の松久保園長が講師を務めました。
松久保園長による「あなた(大人)にとって食事とは?」という問いかけからスタート。配られた用紙に、参加者が思い思いに「食事」から想起されるものを書いていきます。家族の食事を作る立場からの「他人が作ったものを食べたい」「悩みの種」といったものもありながら、基本的には、「満足感」「リラックス」「幸せ」などポジティブなものが大半を占めました。
次に、対象を子どもに変えて、再度用紙に記入します。今度も「成長」「笑顔」「命をつなぐ」といったポジティブなものから、「食べさせられる」「嫌いな時間」「食べられるか不安」といったネガティブなものまで多くの言葉が挙がりました。
楽しみと捉える人が多かった大人と比べ、子どもの食事は「義務」であると感じている人が一定数いる結果になったのが大きな違いです。「何とか食べてもらわなければと思っていない?」という古川施設長の言葉に、参加者はハッとしたような表情を浮かべていました。
子どもの心にある「理由」に思考を巡らせて
次に古川施設長が問いかけたのは、「なぜ、今座っている席を選んだの?」。この日、用意されているテーブルは異なるサイズ。加えて、テーブルの上にはそれぞれ異なるお菓子やフルーツが置かれていました。
「新人なので、前の方の席に座ろうと思いました」「自園の参加者が全員座れる席を選びました」「指名されるのが苦手なので、後ろの方の席を選びました」
個々にある「選んだ理由」。古川施設長は、「心のなかに理由があるのは、子どもも同じなんですよ」と言います。
叱られたあと、その先生の近くに座るのは避けたい。ケンカしてしまった友達、ちょっと苦手なあの子の隣に座るのは気が進まない。座る席ひとつを取っても、「座れない」のにはその子なりの理由があるのです。
理由があるのは、食べない・食べられないも同じこと。子どもが苦いものや酸っぱいものを避けたがるのは、生存本能が働いているからだと古川施設長は言います。そのため、嫌がるのはただの好き嫌いではなく、舌先が敏感だからなのです。
現在、子ども発達支援センターつむぎ浦和美園に勤務している古川施設長は、こだわりが強いために食べない・食べられない子どもにも多く接しています。どのケースでも無理強いすることなく、食に自ら興味関心がもてるよう、大人達が美味しそうに楽しんで食事をする姿を見せること、環境をつくることを大切にしているそうです。
「偏食も小食も、背景には理由があります。その子その子のペースで成長している途中なんです。無理強いするような対応をしてしまうと、そのペースを崩してしまいます。取り返しがつかなくなるわけではありませんが、元の成長ルートに戻るまでに時間がかかってしまうことを覚えておいてほしいです」
古川施設長の経験からくる言葉に、参加者は聞き入っていました。
「自由」は「丸投げ」ではない
どろんこ会グループの保育園では、自分で座りたい席を選び、自分で盛り付けるビュッフェスタイルを取り入れています。このビュッフェスタイルの給食で、まずありがちな職員の声掛けが、「自由に座っていいよ」だと言います。古川施設長は、「子どもにとってなんでもかんでも全部自分で決めることは難しいことなんです」と説明しました。
小さなことから「自分で選ぶ」体験を積み重ねる
「早く座る子にも、うろうろし続けてなかなか席を決められない子にも、それぞれ理由があるんです。座りたかった場所にケンカした子が座ってしまって、迷っているうちに座りたい席がすべて埋まってしまっただとか。特に、なかなか選べない子は、選ぶことによる快の経験が足りていないことが多いため、まずは小さなステップから選ぶ体験をしていくことが大切です」(古川施設長)
「自分で選べる」環境を整える
「子どもに何かを選んでもらう経験をしてほしいときは、すべてを子どもに委ねないでほしい」と古川施設長は語ります。特に、1番手は緊張するものです。そのため、ビュッフェでの席決めの場合、まずは職員が率先して座る姿を見せてあげるなど、「選べる環境」を整えることに意識を向けてほしいと言います。今回、異なるサイズのテーブルやお菓子を用意したのは、「場を整える」ことだったのです。
すべての選択肢を子どもに投げてしまうことは、自由ではなく放任です。安心して選べるよう選択肢を作って子どもに尋ねたり、いい塩梅のルールを作ったなかで決められるようにしたりすることが、子どもの「ジブンで決める・ジブンで選ぶ・ジブンで食べる」力につながっていきます。
食事を通して育みたい力は何かを考える
講義の最後には、グループごとに困っていることや悩んでいることを共有し、ディスカッションする時間です。
手段と目的は違う
「新年度が始まり、いつからビュッフェを始めればいいか」「食べきれない量をお代わりしてしまう子どもへは、どうやって対応すればいいか」といった悩みごとに対し、松久保園長は、「ただ『やらなきゃ』と思っているだけなのであれば、無理にビュッフェをやる必要はないのではないでしょうか」と、ビュッフェで食べることが目的ではなく、「ビュッフェを通して子どもたちのどんな力を育みたいのか」を考えるよう問いかけていました。大人が環境を工夫する
また、「食べきれない量のお代わり問題」では、「『量を減らそうか』という声掛けは、子どもにとってはネガティブなこと。自分のものを取られてしまうと思ってしまうんです」とアドバイス。大中小を置いて選べるようにする方法もあると言います。「選べるツールは何でもいいんです。『子どもに絶対盛り付けさせてあげなければダメだ』ということではないんですよ」という松久保園長の言葉に、参加者は深くうなずいていました。大人がちゃんとした理由をもってその子にとって適した方法を考える。そのなかで、子どもは少しずつ「ジブンで決める・選ぶ」を身に付け、「ジブンで食べる」ことができるのです。
子どものためにと熱心なあまり、子どもにとって「食べさせられる」時間になってしまう可能性もあることに気づいたスキル講座。去年に引き続き、たくさんの職員が参加し、気づきや学びを自園に持ち帰っていました。
関連リンク
食べることは生きること・自然なこと― 子どもに寄り添う「食育」を考える
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