【乳幼児期に育む「6つの力」を考える】縁側給食編
2019.11.14
どろんこ会グループには「6つの力」と呼んでいるものがあり、それぞれの力を育むための基本活動が26あります。どろんこ会グループ独自の表現もありますが、「6つの力」も「基本活動」も、2018年4月1日から施行された新「保育所保育指針」に明示された「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿(10の姿)」に基づいているもの。今回は「自分でできることを自分でする」の中の基本活動「縁側給食」について考えてみたいと思います。
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縁側給食とは
縁側がある園では、「毎日の昼食、おやつを縁側で食べること」が基本活動の一つとなっています。座るテーブルがクラスごとに決まっているのではなく、子ども自身がどこで食べたいか、誰と食べたいかを決め、大きい子、小さい子が混ざり合って異年齢で食事をします。家庭と同じように、職員も同じテーブルに座り、子どもたちと一緒に食事をします。
ですが、敷地面積によって縁側の幅や長さが異なり、たくさんの子どもたち、職員が食事するスペースが十分でない園もあります。また、「なぜ、わざわざ縁側で食べるの?」と質問が出ることも。そこで今回は、馬場どろんこ保育園(横浜市鶴見区)に「縁側給食」の取り組みについて聞いてみました。
馬場どろんこ保育園の取り組み
取り組み始めた頃の様子
2019年4月に新規開園した馬場どろんこ保育園は、住宅街の中に建ち、敷地面積は広いほうではなく、縁側のスペースは幼児クラスが一度に座るには十分でありません。取り組み始めた当初の様子をリーダーの結城さんは振り返ります。
「『縁側給食』が初めての新入職員は、動きや目的がよく分からないこともあり、最初は打ち合わせ不足で職員同士の連携がうまくいきませんでした。1階の幼児クラスの縁側は広さが十分ではなく、子ども同士の関係性ができていない頃は、狭いところを通る時に声をかけられずに、ぶつかってこぼしてしまうこともありました。他には、子どもたちはご飯やおかずを自分たちで盛り付けられることがうれしくて、食べられる以上によそってしまい、残食が増えてしまう問題も起こりました。」
荒川園長も「幼児クラスは開園初日から現在まで基本の活動として実施できましたが、乳児クラスは縁側に屋根がなく、床が熱くなることもあり、実施できたのは数日のみです。構造上、床板の隙間が大きく、こぼれた食べ物がつまりやすくて掃除に時間がかかること、園の隣を水路が流れているので、蚊が多いというようなことも悩みです」と課題を教えてくれました。
開園から半年後は…
「『縁側給食』について、職員同士の意識が統一できるよう話し合いを重ねているところです。幼児クラスのスペースの課題は、室内にもテーブルを置き、子ども自身が食べる場所を縁側か室内かを選べるようにしました。どろんこ会グループは完食の強要はしませんが、残食が多い課題はどうにかしたい。残食バケツにただ入れるだけでは『もったいない』という感覚がないのではないかと話し合い、食べられる量を意識できるような言葉がけをしたり、残す時はバケツではなくて食器に集めてから調理スタッフとやり取りしたりすることで、自分が食べられる量を考えられるようになってきました」と変化を話す結城さん。園会議の時には、各クラスの食事の様子や課題を共有しているそうです。
荒川園長にも職員の取り組みの様子を聞いてみました。
「職員の中には、『暑い』『蚊が多い』『掃除が大変』『子どもが落ち着かない』などのマイナスな感覚、『縁側給食やろう』と『でも、どうしよう…』といった思いが入り混じっていることは確かにあります。『縁側給食』を法人の決まりや園長の考えとして「やらされる」のでは意味がありません。食の環境を人的にも物的にも皆で創り上げていけるよう、食についてのプロジェクトチームを発足しました。近隣の東寺尾どろんこ保育園(横浜市鶴見区)の中村園長に協力いただき、園会議でみんなが基本から学ぶことで、栄養摂取のための食事でなく、子どもの心の育ちの視点で『馬場どろんこ保育園食事の指針』について創っていくところです」と教えてくれました。
「縁側給食」で育みたいものとは
「縁側で食べる」ことは簡単なようで、実は様々な課題をクリアし、工夫が必要なことではありました。では、なぜここまでして「縁側給食」を大事にしたいのか。「縁側給食」は、子ども自身がどこで誰と食べるか、どれだけ食べるかを考え、判断し、行動するという点では、10の姿の「ア 健康な心と体」「イ 自立心」にあたります。
ア 健康な心と体 保育所の生活の中で、充実感をもって自分のやりたいことに向かって心と体を十分に働かせ、見通しをもって行動し、自ら健康で安全な生活をつくり出すようになる。
イ 自立心 身近な環境に主体的に関わり様々な活動を楽しむ中で、しなければならないことを自覚し、自分の力で行うために考えたり、工夫したりしながら、諦めずにやり遂げることで達成感を味わい、自信をもって行動するようになる。
「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」(厚生労働省 保育所保育指針より)
「縁側給食」で大切にしたいことについて、結城さんは、「最初、自分で盛り付けることが嬉しく、ついついたくさんよそってしまう子どもたちの様子を見て、ご家庭も含めて自分でご飯をよそったり、食べる量を決めたりする経験が少ないのかもしれないと思いました。だから園では、自分で考えて盛り付けたり、縁側で桜や紫陽花などを眺め、季節を感じながら食べたりなど、お家ではなかなかできない経験をさせてあげたいと思っています」と話します。
また、荒川園長は「日本では完食が良いという風潮がありますが、食事の中でそれが最優先されるのは違和感があります。普遍的でありながら日々変わる気候を感じながら、みんなと食べる給食が子どもの原体験となり、感性を豊かにし、『多様性・包括化の時代に生きる力』のある人間になっていってほしいと願っています」と原体験の視点で育みたいものを教えてくれました。
食べる量も、どのテーブルで誰と食べるかも子どもが自分で決める「自己決定」が自立心を育むことにもつながり、季節の移り変わりを感じながら食べる原体験が感性を豊かにしていく。「縁側給食」には、そのようなねらいもあることが見えてきました。
今回は馬場どろんこ保育園の「縁側給食」の取り組みを通して、「自分でできることを自分でする」を考えてみました。ただ預かるだけの保育ではなく、「これからの社会を創る子どもが経験すべきこと」「日々の生活や遊びを通して学びに向かう力を育むこと」を考え、その機会をつくっている園・職員のエピソード。今後も様々な園・職員の【乳幼児期に育む6つの力を考える】シリーズをお伝えしていきたいと思います。
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