「託児所」ではなく「保育園」を作りたい─ビックカメラ Bic Kids─前編
2020.02.20
「子どもたちの『にんげん力』を育みたい」を保育理念に掲げるどろんこ会グループ。その中の株式会社日本福祉総合研究所は、事業所内保育所の企画・コンサルティング、受託運営にも携わっています。「社員の子どもをただ預かるのではなく、よい保育を提供できる場を作りたい」と考えるクライアント企業様からご依頼いただき、共に園づくりを行ってきました。今回取材したのは、2017年に開園した、株式会社ビックカメラ様の企業主導型保育園「Bic Kids(ビックキッズ)」(東京都豊島区池袋)。前編と後編の2回に分けてお伝えします。
前編では、Bic Kidsの立ち上げから関わってこられたビックカメラの執行役員人事部担当部長兼ダイバーシティ推進室室長の根本さんに、どのような想いで保育園を開園させるに至ったのか、委託先としてどろんこ会グループを選ばれた理由などについてお話をうかがいました。
──ビックカメラには男性店員さんが多いイメージがあります。保育園設置に至った理由についてお聞かせください。
ビックカメラは、パソコンやテレビといったデジタル家電や、「白物家電」と呼ばれる冷蔵庫、洗濯機などの生活家電のみを取り扱っているいわゆる「家電量販店」のイメージが強いかもしれません。しかし、美容家電を取り扱っていたり、おもちゃやランドセル、楽器などの取り扱いもしていたりと、男女問わず、大人から子どもまでを対象とした商品が多いんです。創業当時はまだ専業主婦が多く「家電」を主に使用していたのは女性であり、女性も男性に劣らず弊社で扱っている商品を多く使ってくださっているのではないかと考えてきました。
特に、女性ユーザーが多いキッチン家電や家事家電の商品説明をするのは、同じ目線に立てる女性店員のほうがお客様の安心や納得感に繋がるのではないか。また、売り場づくりや接客においても女性店員が非常に高い能力を発揮してきた背景があり、弊社では創業当時から女性の力を頼りにしてきたのです。その為、縁あってビックカメラに入社した女性たちに対し、「この会社で成長し、長く働いてもらいたい」という想いがありました。
しかし、現実問題として、子どもの預け先が見つからないという理由で離職してしまう女性従業員が多くいました。その為、会社としては以前より「保育園を作る」事は検討していました。また、公にはしていませんが、ビックカメラでは「明るい未来の為に、目先のことだけではなく、将来を担う子どもたちへの影響を重視したい」という想いがあります。それは、従業員だけでなく、お客様に対しても同じ想いがありました。ビックカメラにおいて、トイズの取扱いを早くから開始した経緯もそこにあります。ビックカメラでは、母親である女性、子ども支援に力を入れていたのです。さらに、社内からも「預けられる場所がほしい」といった要望が聞こえてもいたのですが、さまざまなことが関係して、なかなかすぐには作れませんでした。
──そのような想いが売り場にも現れていたんですね。保育園開園の構想が具体的になったのには、何かきっかけがあったのでしょうか。
会社として、「本気で女性従業員に長く活躍してもらいたいと思っている」と示したかったことが大きな原動力になりました。いろいろなタイミングが重なったのが実現をさらに後押ししましたね。
一番苦戦したのが物件探しでした。保育園は、駅から徒歩圏内で、安全で、近隣住民の理解が得られる場所でないと運営が難しいですから。設置する地域は、最初から本社もあって支店も複数ある池袋と決めていたため、エリア内で物件を探しました。そして、ようやく複数の物件が候補にあがり、助成金の話も出たことで一気に計画が動き始めたんです。
──運営委託先として、なぜどろんこ会グループを選ばれたのですか?
実は、最初は何社か名前があがっていたんです。その中で最終的にどろんこ会グループに決めた大きな理由は、保育理念への共感ですね。
また、設置側と運営側がそれぞれ異なる企業となるため、どう連携を取るべきかは大きな課題でした。なので、意思疎通がしやすいと感じた点も重要な判断材料となりましたね。
さまざまなお話を聞くなかで、保育へのこだわりと想いを強く持たれていて、真剣に日々の保育に取り組まれていると感じました。実際にどろんこ保育園を何カ所か見学させていただいて、園長先生たちの考え方や保育のあり方を知り、その子たちの“生きる力”をとても大事にしているということを肌で感じたんです。子どもたちとの触れ合いからも、その想いがダイレクトに伝わってきました。どろんこ会グループが子どもたちに対して思っていることと、私達が会社として従業員に対して思っていることがすごく近いとも感じました。
“ビック”には、「社員たちの可能性は無限で、この会社でいいところを最大限に発揮しながら成長してもらいたい。そして最終的にはそれをお客様に届けて喜んでいただきたい」という創業からの想いと社風があるんです。
計画が動き出した当初から、創業者には「託児所を作るのではない。保育園を作るんだ」と強く言われていました。つまり、人として成長していく場を提供するのが保育園だということです。
どろんこ保育園は、困っているお母さんたちが子どもを預ける場ではなく、お母さんたちも助かりつつ、そこで子どもたちが生き生きと自分らしさを出しながら成長していく場を提供している。そこに共感し、ビックカメラの考えと近いと感じた為にお願いすることになりました。
──両社の理念の部分が近いというのは、保育園を運営していく際にもとても大切なことですよね。開園準備はいかがでしたか?
とにかく設置側の想いをきちんと伝えていかないとビックカメラの保育園にはならないと考え、意思疎通をしっかり図ることを大事にしました。開園前は、週1回は打ち合わせをして、いろいろなことを教えていただきながら二人三脚で作っていったという感じです。
また、弊社は店舗を作っている会社でもあるので、店舗開発から店舗設計、広告宣伝・採用・経理・システムまで社内にさまざまな部署があります。そうした強みを活かし、それぞれのプロフェッショナルが力を合わせて保育園を立ち上げることができました。さらに区役所の方もすごく協力してくださって、いろいろなアドバイスもいただきました。本当にみなさんに感謝しています。
──組織という枠を超えてみんなでBic Kidsを作り上げたということですね。開園してから、社内や保護者のみなさんからの反応はいかがでしたか?
まず、女性の継続就業の支援を本気で考えていることが女性従業員中心に伝わったのは大きかったですね。池袋以外のエリアのスタッフからも、「会社に保育園ができて嬉しい」という声が聞かれました。
Bic Kidsは0・1・2歳児をメインにお預かりしていますが、3歳児に上がるときに「退園したくない」とおっしゃってくださる保護者の方や、途中で認可に移れることになってもすぐには移らない方もいらっしゃるんです。退園後も、ここで仲良くなったお子さんたちが家族ぐるみで遊び、交流を続けているという話も聞きます。入園前はお互い知らなかったけど、Bic Kidsを通じて仲良くなる社員もいるんです。
毎年、前年度の利用者が残ってくださるので、4月の入園数も年々増えてきています。それだけ園長先生を中心に職員のみなさんがいい環境を作ってくださっているということなので、すごくありがたいですね。弊社で利用者の方にアンケートを実施したことがあるので、一部をご紹介します。
- 土日祝日も開園しているので、仕事上すごくありがたい
- 送り迎えのときに、先生から子どもの様子を聞けるのが楽しい
- 園の方針がすごく良い
- 外遊びをたくさんするので、友だちや親以外の大人たちとも関わって成長できると感じた
こうした結果を見ても、非常に満足度が高いことがうかがえます。
──Bic Kidsはビックカメラの従業員だけでなく、地域枠も設けられていますが、実際に地域の方のご利用もありますか?
ビックカメラは池袋に本社があり、古くから地域の方々に支えられて来ました。開園を決めた当初、待機児童も多く、地域に貢献したいという想いもありました。開園から数年経ちましたが、実は、今は地域の方の利用が多いくらいなんです。Bic Kidsではお散歩が多く、地域の方とも触れ合う機会が多いので、地域の方への認知度が年々高まってきたと感じています。
あとは、ビックカメラにアルバイトとして入社して、Bic Kidsの社内枠を利用する人もいます。弊社は年末にかけてかなり忙しくなり、その時期には通常時よりもアルバイトスタッフがとてもたくさん必要になります。その募集にはお子さんを預けて働きたい方から応募をいただくことがあるんです。どんどん多くの方に活躍していただけるよう、お子さんを預ける場があることを伝えていきたいです。
──保育園は採用活動にも役立っているんですね。企業主導型保育園の場合、認可保育園などと違ってアルバイトでの短時間勤務でも預けることができるので、女性が一度出産で離職しても、社会復帰したいときにBic Kidsを利用してまずはアルバイト勤務から社会復帰する選択の後押しもできますね。
そうですね。弊社にはアルバイトからの社員登用制度もあるので、アルバイトとして入社していただいて、その後の自分のキャリアアップにも活用していただけると想います。
──園とのコミュニケーションについては、どのように取られているのですか?
月1回程度、定例会を開いたり、電話で情報共有したりしています。また、弊社スタッフも保育のお邪魔にならない程度に園に足を運んでいます。園長先生からはかなり密にいろいろなことを教えていただけるので、子どもたちの様子もわかり、安心してお任せしています。
もちろん、設置者として、設備に不具合が生じた際にはすぐ対応しています。また、ビックカメラには「『自分には関係ない』という態度はとらない」という風土があるんです。保育園に関しても、設置側が運営側に任せっぱなしにするのではなく、どんどん関わっていって一緒に作り上げるという姿勢で取り組んでいます。
──では、最後に保育事業について今後の展望をお聞かせください。
今後、2号店も作りたいですし、ビックカメラと保育園とが何か一緒にできることがあればいいかもしれないですね。例えば、子ども向け商品開発のときにBic Kidsでモニタリングしてみるとか、保護者の方のニーズを聞いてプライベートブランドを作る、というような。
根本さん、お話ありがとうございました。後編では、石川園長のインタビューをお伝えします。
後編はこちら関連リンク
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