保育の引き出しを増やすおはなしかご 学びを深める保育士たち
2021.09.30
このたび、どろんこ会グループは株式会社おはなしかごと業務提携し、保育における文化的・芸術的側面をさらに深め、広げることのできる保育士を育成するプロジェクトを立ち上げました。
戸外活動だけでなく、内面の豊かさも大切にする保育を
株式会社おはなしかごを率いるのは大竹麗子先生です。長年にわたり学校や保育園・幼稚園、児童館などで手遊びや手袋人形、パネルシアターなどのお話し会を開催し、ストーリーテラーを目指す教育関係者への講演や研修会を数多く開催されてきました。
どろんこ会グループの保育園でもお話し会を開いていただいたことがあり、各地で開催が広がっていく中で、大竹先生の「おはなしかごの活動を広め、継承していきたい」という想いと、どろんこ会グループの「芸術的な側面を深化させたい」という想いが重なり、提携に至りました。
大竹先生に、なぜどろんこ会グループとの提携を決めたのかを伺ったところ、熱いメッセージを寄せていただきました。
「何年か前にどろんこ保育園の子どもたちに出会った。土と水と光の中で思いっきり遊んでいた! いい顔をしていた! 今まで数えきれない程の保育園を見てきたが、子どもの命がこれほど伸びやかに輝いている所は、はじめてだった。これ程のグラウンドを創った大人がいたことに心奮えた。この子たちの心に『サンタクロースの部屋・心の水と光と土の部屋』を創ってあげたい!と思った。そして 1 歳から 5 歳まで年齢別に『小さな劇場』を毎月届けさせてもらった。想定をはるかに超え子どもたちの心に人形や魔法の小人や森の妖精たちが砂漠で水に出会うようにごくんごくんとのみこまれていった。保育士も同じだった。子どもたちは私の姿を見ると駆け寄ってくる。玄関でぐずって泣いている子が『あっ! 今日お話し会だ!』と泣きやむ。子どもたちは私という個人が好きなのではない。届けるあのひと時の中で自分の心に生まれてくる美しい気持ち!楽しい気持ち! 躍動する気持ち、それらが小さな心に抱えきれないほどある、悲しさや淋しさや自分ではどうすることもできない苦しさを穏やかに静めてくれて、喜びと生きる力が生まれてくることをはっきりと感じているのだ。だが私の命は限りがある。このひと時を保育士が届けられるようにしなければならない。一度や二度の線香花火のような研修会をしてもだめだ。仕事として本気で誇りを持って挑むのだ。どろんこ会に力を貸したのではない。タッグを組もう! と叫んだのだ。おはなしかごとどろんこ会が思いと力を合わせ、世界中どこの国でも 実現していない『保育士の素晴らしい文化力』を溢れさせ子どもたちの心を幸福にしてゆきたい!」
学び事業部部長の桑原さんは「言葉の豊かさをもって大人と子どもがやりとりをしていくような文化的な側面を保育の引き出しとしてもつことができれば、戸外活動ばかりしているのでは?と思われがちなどろんこ会グループにおける保育のバランスがさらによくなってくると考えています。手遊びや素話、わらべうたなどは伝承技術であり、保育の中核を成すものでもあります。大竹先生が教えてくださるものは、ただ覚えたらできるといったレクリエーションレベルではなく、本当に子どものことを見て実践しているものだったことに魅力を感じました」と話します。
言葉の持つ力に気づき、保育士に内在する力を引き出す講義
このプロジェクトでは、お話し会や手遊び、パネルシアターなどのやり方を学びます。「ソリストコース」と「アンサンブルコース」と二つに分け、グループ内で参加を募ったところ、前者に10人、後者に14施設が選ばれました。
ソリストコースとは、すべての演目を一人でできるようになり、かつグループ内で講座を開き、そのノウハウを広めていくことができる人材を育てることが目的です。およそ1年間にわたり月2回の直接指導を受けます。アンサンブルコースは施設単位で参加し、練習動画を講師に送り、アドバイスを受けるという内容です。
ソリストコースの講義をのぞいたところ、大竹先生からの指導は非常に細かいものでした。一人ずつ課題を実演したあとに、声の出し方、抑揚、立ち位置、背景、手の動かし方まで、言葉でのアドバイスだけでなく、大竹先生自身の実演も交えて、どのようにしたら子どもたちをお話の世界に引き込めるか、大竹先生のこれまでの経験をもって伝えていきます。
レッスンを受けている馬場どろんこ保育園(神奈川県横浜市)の結城さんと、発達支援つむぎ 宮下ルーム(千葉県君津市)の榊原さんにもお話を伺いました。
結城さんは応募のきっかけについて「もともと絵本やわらべうたなどが好きで、保育にも積極的に取り入れていました。その中で、言葉から子どもたちが様々なことを感じ、想像を広げる姿に、言葉の持つ力を感じるようになりました。まず私自身がもっと日本語の素晴らしさを知って、それを子どもたちに届けたいと思ったのです」と話します。
榊原さんも学生時代から児童文化に興味をもっていたと言います。「パネルシアターなどを演じる中で言葉の抑揚の付け方や、見せ方、視線の向け方など、子どもたちがお話を楽しみながら見るにはどうしたらよいか考えていた時にこの募集を知りました」と意欲的に応募しました。
自宅で動画を見ながら事前に練習を繰り返し、結城さんは毎回他の受講生の良かったところをメモしそれを振り返り、また榊原さんは他の人にも見てもらうようにするなど、それぞれ万全の体制で受講の日を迎えているといいます。
実際にレッスンを受けてみて2人は「演じているときに子どもの方を見ないこと。物語に自分自身が入り込むことが大切。そうすることで子どももお話の世界に入り込むのです」という大竹先生のアドバイスに、驚きと新しい発見をしたと言います。また榊原さんは「一つの話の中でも言葉の伝える声の大きさ、トーン、話の間など細かい部分でも意識を変えるだけで伝わり方が変わるということを、大竹先生の見本だけでなく、他の人の発表を見て強く感じました」と、さまざまな気づきがあったようです。
そんな受講生の姿を見て大竹先生は「想定をはるかに超えた成果と進歩を目の当たりにしています。各園の保育士たちの内在していた力に心奮えています」と、手ごたえを感じていただいているようです。
子どもにも他施設のスタッフにも言葉の素晴らしさを伝えたい
今後、桑原さんが期待するのは、ソリストたちが学んだことを他の施設にも広げていくことです。結城さんも榊原さんもその準備は万端のようです。
結城さんは「様々なお話を子どもに伝えることはもちろんですが、どろんこ会の他のスタッフにも、少しでも言葉って素敵だな、と感じてもらえる取り組みができたらいいなと思っています」と言います。
榊原さんも「パネルシアターや人形劇だけでなく、日ごろ読んでいる絵本などにも読み方、語り方は共通している点もあるので、子どもたちが物語に入り込み『聞きたい』と思えるような伝え方を意識し行っていきたいと思います。また、『このお話に興味ないのかな?』『話を聞くのが苦手なのかな?』などお話を聞く際の子どもの行動を考える前に、どうしたらお話に入り込み楽しんで見ることができるかを考え、一つ一つのお話を大切に子どもたちに児童文化を楽しく伝えていきたいです。さらに、自分だけでなく他職員にも学んだことを伝え、児童文化を子どもだけでなく大人も楽しめるような環境につむぎ・保育園ともに変えていけたらと思います」と展望を話しました。
どろんこ会グループではこれからも、子どもの心を豊かにしていくための取り組みを推進していきます。そのためのスタッフの育成に努めます。