保育にESDの視点を取り入れる 日本ユニセフ協会のSDGs講義を5歳児が体験
2021.11.18
清瀬どろんこ保育園(東京都清瀬市)では今年度、「ESD=持続可能な開発のための教育」の視点を取り入れた活動を展開しています。
今回はその活動のひとつとして、5歳児が日本ユニセフ協会の講師によるSDGsを学ぶオンライン講義を体験しました。
子どもたちに価値観を育むための体験活動
清瀬どろんこ保育園の主任を務める加藤さんは「どろんこ会グループでは野外での体験を大切にしていますが、それを単なる自然体験で終わらせるのではなく、その体験機会を与えてくれる自然を守る、それが世界とどうつながるのかを考える機会にしたいと考えました。またそれは子どもたちに知識を植えつけるということではなく価値観を育みたい、と考えたのです」と、ESDの視点を取り入れた背景を語ります。
そこで今年度はさまざまな計画を実施してきました。
4月には環境保全ボランティア活動に参加しました。7月からは金融リテラシー教育※として、畑で育てたじゃがいもが余ったのを機に保護者への販売を始めました。お金の大切さや使い道、感謝の気持ちといった価値観を育むための取り組みです。
さらに、世界的なスポーツの祭典が自国で開催されるという貴重な機会を活用し、異文化の理解、多様性を認めること、そして平和について考える機会を創りました。
※お金について十分な知識をもち、お金との付き合い方について適切に判断する力をもつための教育。
保育園の活動につなげ、世界中の子どもたちに思いをはせる
環境や金融、国際理解や多様性や平和といったテーマを子どもたちの体験活動に結びつけ「次世代の価値観を育てたい」と言う加藤さん。そこに切っても切り離せないテーマがSDGsでした。持続可能な開発目標と訳されるSDGsにおいては、誰一人取り残さない社会の実現を目指し、17の目標が掲げられています。ESDは「その全ての目標達成のために不可欠である質の高い教育の実現に貢献するもの」と位置づけられています。
SDGsについて子どもたちに伝える手段を探す中で出会ったのが、日本ユニセフ協会のオンライン講義でした。
当日、5歳児たちは何が始まるのかわくわくしながら部屋に集まってきました。これまでの活動を通して知ったさまざまな国のことを思い出しながら、「遠くの友達について、ユニセフの人に聞いてみよう」と日本ユニセフ協会で講師を務める山口先生とZoomでつながると、皆、次々に物おじせず話しかけました。
山口先生はまず、ユニセフが世界で困っている子どもたちのために活動をしていることを伝えました。そして実際に各地の子どもたちの様子を映像で見ることに。トーゴの子どもたちが泥水を飲む様子に驚いた表情を見せる子どもたち。エチオピアに暮らす女の子は、朝から夕方までラクダと一緒に水がある場所まで歩き続け、バケツに水をくんで家に戻って初めて食事をとることができるという生活をしていました。自分たちがその間、外で遊んだり、給食やおやつをいただく生活をしているというギャップに、子どもたちは言葉も出ない様子でした。
同じくネパールの子どもたちも水くみが生活の一部となっています。そこで実際に使われている物と同じ水がめを持ってみるという体験をしてみました。2人がかりでも「すごく重い」と悲鳴が上がります。重さを測ってみるとなんと15.6キログラムもありました。「一日を過ごすのに、この水がめ一つで足りるかな」という山口先生の問いかけに「足りないよ」と子どもたち。水があることが当たり前の生活はとても素晴らしいことであり、世界の子どもたちが皆同じような生活をしているわけではないということを、子どもたちもはっきりと理解できたようでした。
さらに南スーダンでは飢えに苦しみ、自分たちと同じ5歳になる前に亡くなってしまう子どもがいるという現実につらい表情を浮かべて聞き入ります。それが6秒に1人のペース、6を数えるうちに進んでいるということを知り、衝撃を受けた様子でした。
そこに山口先生から「SDGsを聞いたことがあるかな」の質問に「知っている」と数人が答えました。「みんながよりよく過ごせるようにしようという取り組みで、ユニセフもみんなのお金で世界の子どもたちに必要なものを届けています。例えば飢えに苦しんで栄養が足りない子どもの命を救うことのできるカプセル、これは1つ2円で買えるんです」その言葉に「すごい」と目を輝かせました。自分たちでお金を扱ってきた経験があったからこそ、たった2円で友達の命を救えることのすごさに気づくことができたのでしょう。
ここで再び体験です。登場したのは「蚊帳」。実際に蚊帳に入って寝てみました。子どもたちが皆経験している予防接種を誰もが受けられるわけではない現実を伝え、この蚊帳があることで、蚊が媒介する伝染病から守られるという説明を受けました。
最後、山口さんは「世界のこんな子どもたちに会ったよ、とおうちの人にも話してみてください。あの子たちはどうしているかなと思い出してみてください」と伝え、自分たちに何ができるかなということも問いかけました。
1時間にわたる講義でしたが、5歳児たちは最後まで真剣に話を聞くことができました。保護者の方からも「家に帰ってから、ビタミンのカプセルやワクチンのこと、100円で栄養食が3個買うことができるといった細かいことまでしっかり話を覚えていて、話してくれて驚きました。心に残ったのだと思います」といった感想をいただきました。
子どもたちが心動かされる体験を一つでも多く保育園で
講座を終え、加藤さんにも話を伺いました。
「就学前の先取りの勉強、ということではないのです。特にこの2年間、コロナ禍で子どもたちにとってのさまざまな体験の機会が奪われていくことにとまどっていました。しかし『できない』に囲まれている中だからこそ、今、学んだことや刻み込んだことを通して、大人になった時に自分の力で切り開いていけるような土台を育みたいと思っています。人格の基礎を形成するということは、心が動かされる経験を積み重ねた結果、どういう価値観をもつかだと思うので、私たちが大人として伝えられることをひとつでも多く伝えていきたいのです」と、今回の活動の意義について熱く語ります。
今後について加藤さんは「これまでの野菜の販売で得たお金をどのように使うか話し合っています。もしかするとこの講義を受けて募金というアイデアも出るかもしれません。これから冬になり作物も採れなくなるので、近隣園の家畜の糞を活用した踏み込み温床に挑戦したり、米ぬか石鹸を作ったり、今度は科学や技術といったSTEAM分野の経験も含めていけるといいなと考えています」と、活動はまだまだ広がりを見せそうです。
清瀬どろんこ保育園では、今の時期にしか感じ取れないことを一つでも多く子どもたちが経験できるよう活動していきます。