インクルーシブ保育を目指す、どろんこ保育園と発達支援つむぎの連携
同法人内に保育園と児童発達支援事業所を運営するどろんこ会グループ。その目的は、すべての子どもが共に遊び、生活しながら育ち合う「インクルーシブ保育」を実現するためです。その実現に向けて、保育園と発達支援つむぎ双方のスタッフは、「にんげん力。育てます。」を共通の子育て理念に、必要な遊び・野外での直接体験を通して、すべての子どもに「自分で考え、行動する思考」を育む保育・発達支援に取り組んでいます。
先日、東寺尾どろんこ保育園(神奈川県横浜市鶴見区)の園児で、発達支援つむぎ 横浜西口ルーム(神奈川県横浜市西区、以下つむぎ横浜西口ルーム)も利用されているAさんの保護者の方が、保育園とつむぎ双方で取り組んでいる「自分たちで決めて活動する」ことの成果について、本部にご感想を寄せてくださいました。その保護者の方に、発達支援つむぎの利用を決めた理由や利用し始めてからのAさんの変化、保育園と発達支援の連携で大切だと思われていることについて直接お話をお伺いする機会をいただきました。
保育園も発達支援つむぎも同じ子育て方針だからこそできる連携
—つむぎ横浜西口ルームを利用するきっかけを教えてください。
保護者様:1歳半健診の時に、言葉の遅れについて気がかりがあると言われていました。年少クラスになった時に、保育園の先生からも、落ち着きのなさ、人の話を聞くことや言葉でのやり取りが苦手な様子に気がかりなところがあるとお話があり、療育センターにも相談に行って発達支援に通うことになりました。どろんこ会に発達支援つむぎがあることは知っていたのですが、通いやすい家の近くの事業所も同時並行で探していました。見学に行った事業所は、机上でのお勉強的な内容だったこともあり、東寺尾どろんこ保育園と同じように遊びを中心とした活動があり、先生同士が連携してもらいやすいほうが良いのではないかと思い始め、つむぎ横浜西口ルームを利用することに決めました。
—同法人内の保育園と発達支援を利用してみて、お子様の変化やご感想を教えてください。
保護者様:友達とのトラブルが減ってきたと感じています。相手の気持ちを考えることや自分の気持ちを言葉で伝えることが苦手でした。それが、相手の気持ちを考えられるようになり、なかなか言えなかった「ごめんなさい」も言えるようになりました。
この変化はつむぎ横浜西口ルームで、「自分を認めてもらえた」と実感できる経験が積み重なってきたからなのではないかと思っています。本人がイライラしたり、悪いことをしたりしても、つむぎの先生は、まず気持ちを受け止め、どんな気持ちなのかを代弁してくれます。その様子を見て、親としても、そうした関わりが大切なんだと気づくことができました。それまでは落ち着きがなく、友達に手を出してしまうことが多かったのは、本人が自分の気持ちを受け止めてもらえていないと感じていたからかもしれません。
また、「ごめんなさい」と言えなかったのは、本人が「何がいけなったのか」と謝る理由を理解していなかったのだと思います。つむぎの先生の関わり方を見て、謝らなければいけない理由が理解できるまでは、無理に「ごめんなさい」を言わせなくてもよいということが分かり、親も変わらないといけないと思いました。
さらに、遊びに集中できるようになったことも大きな変化だと思っています。つむぎの活動でも最初は何をしてよいか分からない様子でした。それが「こういう遊びがしたい」という気持ちが出てきて、遊び込めるようになりました。その変化があったことで、保育園でも自分の好きなことをみつけて遊び込めるようになったようです。遊びの中で友達との関わりも生まれて、気持ちを伝えられるようになり、トラブルが減ってきました。—同法人内の保育園と発達支援つむぎとの連携で必要なことや大切だと思われることはありますか。
同法人ということもあり、保育園もつむぎも、子どもが自分で選んで考え、行動することを大切に同じ方針で活動しています。畑仕事があったり、自分で遊びを選んだりなど、どちらでも同じ経験ができるのは、子どもにとっても混乱がなく、いろいろなことへの理解や興味が深まっていると感じています。
連携で必要なことは、つむぎの先生に保育園での様子を見ていただいて、担任の先生と定期的に情報共有してもらうことだと思います。コロナ禍で、つむぎの先生による保育園訪問が延期になっていたので、再開して保育園との情報共有や連携がより密になればと思っています。
インクルーシブ保育実現に向けたスタッフ同士の取り組み
今回、東寺尾どろんこ保育園の中村施設長とつむぎ横浜西口ルームの田中施設長に、横浜エリアにある系列施設同士でどのような連携をしているのか聞いてみました。
中村施設長:東寺尾どろんこ保育園では、開園当初から保育だけでなく発達支援の専門的なことも学び、その知識を、障害の有無に関わらずすべての子どもの保育に生かしていくことを大切にしています。コロナ禍では一時見合わせることもありますが、つむぎ横浜西口ルームのスタッフには子どもたちの様子を見に来てもらう中で、発達に関する質問をしたり、どのような関わりが良いのか相談したりしています。
また、初めてインクルーシブ保育に取り組む若いスタッフもいるため、どういうことがインクルーシブ保育なのか、自分たちがどこまでできているかを確認するチェックリストを作ろうという声がスタッフからあがり、今、つむぎ横浜東口ルームの公認心理師でもある庄司施設長に入ってもらいながら研修を行っています。発達支援のスタッフと情報共有ができる、子どもたちに必要な支援を会議などで相談し合える環境は、インクルーシブ保育を進める上で、保育園のスタッフにとって安心感につながっています。
田中施設長:どろんこ会グループは保育園も発達支援つむぎも、同じエリアの施設が集まってさまざまな会議や勉強会を一緒に実施しています。保育園の取り組みから学ぶことも多く、その一つが中村施設長から教わった保育ドキュメンテーション(保育中の出来事や子どもの様子についてエピソードを伝える文章と写真で記録したもの)です。
つむぎ横浜西口ルームでは、保護者の方に活動中の子どもたちの様子を伝える時は、口頭で説明することがほとんどでした。でも、子どもが自分で選んで決めることを大切にする支援では、保護者の方から見ると自由に遊んでいるだけに見えてしまうこともあり、活動の意図やどんな成長、変化があったのか、口頭の説明だけでは伝わりづらい課題がありました。そこで、中村施設長に教わったドキュメンテーションを活用すると、活動の様子を文字と写真で伝えられるため、保護者の方からも「なるほど、あのときのやり取りにはこういう意図があったのですね」など、分かりやすくなったとのお声をいただくようになりました。発達支援の質を上げていくためにも、スタッフ同士がさまざまなことで連携し、学び合うことが不可欠だと考えています。
障害の有無に関係なく、すべての子どもたちが共に暮らし、遊び、ときにはぶつかり合いも経験しながら、お互い頼り合って生きていくことを学ぶインクルーシブ保育の実現には、保育と発達支援つむぎのスタッフによる一体的な支援が欠かせません。社会においても、インクルーシブ保育が当然のことになるように、今後もどろんこ会グループの保育園と発達支援つむぎのさまざまな連携を発信してゆきます。