保育園での水難事故を未然に防ぐ プール遊び・川遊びで注意すべきこと

2022.07.21

#保育

全施設

季節を問わず、日々の活動の中で子どもたちが「水」に触れて遊ぶことを大事にしているどろんこ会グループ。水遊びがより一層増える夏に向け、マニュアルの徹底だけでなく、より安全に子どもたちが遊べるようにと、今年もスタッフ自らが「水辺のリスクマネジメント」について学ぶ自主研修を開催しました。

研修企画・講師を務めているのは、川遊び資格「RACリーダー(川に学ぶ体験活動協議会)」を持つ仲町どろんこ保育園(埼玉県朝霞市)の羽澤施設長です。毎年、希望者が多い本研修に、今回は約90名が参加。参加したスタッフは、配属施設の他のスタッフにも共有し、施設全体でのリスクマネジメントにつなげます。

7月、いよいよ夏休みが始まり、海や川、湖、プールなど、子どもたちは水辺で遊ぶことが多くなります。保育園だけでなく、ご家庭でも水遊びをする際のご参考になるよう、研修内容の一部をご紹介します。

水遊びの監視の「心得」

今回の研修の内容は、国が定めた「教育・保育施設等における事故防止及び事故発生時の対応のためのガイドライン」の「プール活動・水遊びの際に注意すべきポイント」にも書かれています。しかし「くまなく監視する」「規則的に目線を動かしながら監視する」と書かれていても、「くまなくとは?規則的な目線とは?」など、具体的なことが分かりづらい点もあります。そこで、高校3年間の毎夏、市民プールでライフセーバーをしていた経験もある羽澤施設長は、実際の水難事故の事例を用い、川遊び資格や「小児救命救急法国際資格(EFR-CFC)」の専門知識と経験談を交えながら、より具体的にプールでの監視ポイントについて説明しました。

仲町どろんこ保育園羽澤施設長
仲町どろんこ保育園の羽澤施設長

まず最初に伝えられたのは、監視の「心得」です。

「監視員は遊ばない!写真を撮らない!目を離さない!ながら監視は絶対にしない!」

言われてみると当然のことですが、最近の保育業界ではICT化の影響もあり、子どもたちが楽しく遊んでいる様子を連絡帳アプリなどで保護者に見てもらうため、保育者がカメラやスマートフォンで撮影することが多くなっています。「撮影は一瞬だから大丈夫」は一切通用せず、羽澤施設長は一瞬でも目を離すこと自体が事故発生のリスクを高めると言います。監視担当のスタッフは、目の前でどんなに子どもたちが良い表情をしていても撮影はしない、「先生も遊ぼう」と誘われても一緒には遊ばない、水の外に立って監視に専念しなければなりません。羽澤施設長は、「水遊びを楽しんでいる子ほど、水の怖さを知りません。水を怖がっている子の方が慎重になります。楽しく遊んでいる子には注意を向けておきましょう」と付け加えました。

保育園のプール活動での監視ポイント

続いては、監視のポイントです。羽澤施設長は「常に、死角を探し出す」ことを挙げました。死角が発生しない位置に立つことはもちろんのこと、水面、水中、水底、保育者や子どもの影、水面のざわつきや光の反射も死角になります。だからこそ、監視中は常に「見えていない所はないか」を探す必要があるのです。

また、ただ見ているだけでは見落としがあります。羽澤施設長は、ライフセーバーの監視のポイントである「規則的な目線」について説明。園で使用する組み立て式大型プールを例に、プールの隅々まで監視できるよう、「アップダウンスキャニング」と「サイドトゥサイドスキャニング」で目を動かすこと、また、監視スタッフの真下にいる子どもも見られるよう、プールの淵に立つポイントも伝えていました。

プール監視における規則的な目線
羽澤施設長は自身の経験も交えて「規則的な目線」を具体的に説明

次に「監視時間」です。人が完全に集中できる時間には限りがあります。

そのため一人のスタッフがずっと監視をするのでなく、20分程度で入れ替わり、水遊び中は、より高い集中力で監視できる体制にしておくことがリスクを減らすことにつながります。

「スタッフの配置」について、どろんこ会グループでは、プール活動や水遊びは常に2名以上のスタッフで実施します。監視に専念するスタッフはピンクタスキを着用し、水の外に立つことがマニュアルに定められています。ポイントは「常に2名以上」です。何かの理由でスタッフ1名が離れる時は、必ず交替の1名が来てから離れるなど、一瞬であっても配置スタッフの人数に不足があってはいけません。十分な監視体制の確保ができない場合は、プールを中止することも選択肢に入れることが求められています。

プール監視するスタッフ
誰が監視スタッフか分かるようにピンクタスキを着用

水遊びの監視の際、特に重要な「目と耳」

「子どもは静かに溺れる」と言われています。ドラマや映画のように、バシャバシャと水しぶきを立て、助けてと叫ぶイメージでいると、溺れている子に気づきません。保育者は動いている子ども、大きな声を出す子に注意が行きがちですが、プールでは動かない子ども、静かな子どもに注意が必要だと話す羽澤施設長。監視スタッフは、常に規則的に視線を動かしながら、急な水の音の変化(大きくなった、小さくなった)、咳などの呼吸音、子どもの声などに常に耳も傾けておかなければなりません。

子どもの溺水についてのポスター
「教えて!ドクター」公式HPより

水遊びの「ホンモノの経験」から子どもは学ぶ

水辺にはさまざまな事故のリスクがあります。だからといって、子どもたちを遠ざけることもまた、将来にわたってのリスクになります。研修の最後、羽澤施設長は「正しく安全な水遊びを幼児期に学んでおくことで、子どもだけでの行動範囲が広がる就学以降の水難事故防止にもつながる」と話しました。

「朝霞どろんこ保育園に配属中だった時、近くの黒目川でよく川遊びをしていました。毎回、水深や流れの速さを測り、川遊びが安全に行えるかチェックをするんです。今日は流れがちょっと速いかな、どうしようかなと思いながら計測していたある日、子どもたちから『先生、今日は流れが速そうだからやめた方がいいよ』と言われました。子どもたちは、毎日の川遊びの経験から、川がどういう状況なら安全に遊べるのかを学んでいたんです。子ども自身が『いつもと違う』『危ない』と気づき、判断できる力を育むことが、水難事故を防ぐためにとても大事だと考えています。水遊びには浮力や流れを楽しみながら、バランス感覚を身につけるなど様々な効果もあります。水面がどうしてキラキラ光るのかなど、科学的なことに興味を持つきっかけにもなります。本物に触れながら楽しく遊び、リスクを学んでいけるとよいですね」

川に親しむ子どもたち
安全な川遊びの経験が子どもたちに自分で考え、判断する力を育んでいく
現在、どろんこ会グループには、川遊び資格のRACアシスタントリーダーの取得者は50名、RACリーダーは7名います。今年も50名がアシスタントリーダーを取得予定です。法人で決められた「プール活動・水遊びにおける監視業務マニュアル」にプラスして、自らも「ホンモノの経験」から水辺のリスクマネジメントを学ぶスタッフたち。学んだ知識を生かし、子どもたちに安全で楽しい水遊びの「ホンモノの経験」の機会を創っています。

関連リンク

仲町どろんこ保育園の施設情報

どろんこ会グループの「安全対策・衛生管理について」

「教えて!ドクター」公式HP

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