「あたらしい保育イニシアチブ2022」にて「異年齢・インクルーシブ保育」をテーマに講演しました
2022.09.01
2022年8月21日、官民学が一体となり、あたらしい保育の形を創造する場「あたらしい保育イニシアチブ」が東京大学の三講堂で開催されました。どろんこ会グループからは安永理事長と守谷どろんこ保育園の荒川施設長、卒園児の保護者様である後藤様の3人が登壇し、「なぜ必要か、どう実践するか、異年齢・インクルーシブ保育」をテーマに講演しました。
なぜ今、異年齢・インクルーシブ保育が必要なのか?
前半は安永理事長が「なぜ今、異年齢・インクルーシブ保育が必要なのか?どう実践するのか?」をテーマに講演しました。これからの社会の変化はもちろんのこと、保育所保育指針や障害児支援における児童発達支援ガイドライン、学習指導要領、特別支援学校幼稚部教育要領、小学部・中学部学習指導要領/高等学部学習指導要領の中で、子どもたちに「生きる力」を育むことが求められていることなどの背景を説明。障害の有無関係なく、全ての子どもが「生きる力」を身につけるためにはトライアル&エラーや異年齢の人たちと関わり感情をコントロールする場面の豊富な経験が必要であること、「生きる力」はホンモノの経験からしか育たない後天的な力だと話しました。
また、子どもたちの「生きる力」を育むために、保育者は子どもたちが生きる未来を見据えて、逆算して今何をしなければいけないのかを考え、行動することが必要だとも話し、「保育所保育指針や学習指導要領が変わっても、現場がもっと変わらないといけない」と力強く訴えました。
どのように異年齢・インクルーシブ保育を実践するかについては、どろんこ会グループが運営する認可保育所と児童発達支援事業所を併設した施設において、障害がある子と無い子が遊びを通して共に育ち合っている事例や、加配保育士をつけない「ゾーン保育」「見守る保育」の実践も紹介。保育者は障害があることを特別扱いし、さまざまな直接体験の機会を奪うのではなく、適切な支援・環境設定を行う重要性を伝えました。
保育現場や利用者からのリアルな声を届ける
これまでは安永理事長の講演で終わることが多かったのですが、「実際の現場はどうなのか?保護者の方や子どもたちはどうなのか?」と職員や障害のあるお子さまを育てる保護者の方のリアルな声も届けたいとの思いから、後半は守谷どろんこ保育園の荒川施設長と同園の卒園児の保護者・後藤様がエピソードや想いを語りました。その一部をレポートします。
インクルーシブ保育は、どんな保育環境がより良いかを語り合うことから始める
2021年4月に開園した守谷どろんこ保育園。荒川施設長は施設長として着任し、開園と同時に他園から5歳児クラスに転園されたのが後藤様の聴覚障害があるお子さまでした。
荒川施設長は着任当初のことを「どろんこ会に長く勤めている職員ばかりではなく、新卒もいれば、中途入社の職員もいました。経歴や価値観はバラバラで、各自のインクルーシブに対しての理解もスキルも未知数な中、正直、インクルーシブ保育ができるか不安でした。ましてや新園でやりきれるか、職員も不安なスタートになるだろうなあという気持ちでした」と語りました。
そのような状況で、後藤様のお子さまの受け入れにあたっては「インクルーシブ保育は理事長や施設長だけが単独でするものではありません。今はインクルーシブ保育を深く理解できていなくても良いので、職員とはどんな保育環境がより良いかを語り合うことから始めました。もちろん失敗もたくさんします。でも、施設長がインクルーシブ保育の旗を掲げて対話を積み重ねることが大事です」と、会場の参加者に実践のヒントを伝えました。
守谷どろんこ保育園で過ごした1年が支えになっている
後藤様は、転園に至った経緯や転園後のお子さまの変化、現在の様子を語ってくださいました。
「息子が難聴であることがわかるまで5年かかりました。1歳の頃から発達全般がゆっくりで言葉の遅れや行動面からADHDではないかと言われたこともありました。みんなと同じようにできないと、今思えば自分こそがありのままの息子を受け入れられなかったんだと反省していますが、園からできないことにフォーカスされた話を毎回聞かされることに精神的に追い詰められていました。でも、ひとつ学年が下の友達と楽しそうに遊ぶ我が子を見て、学年を下げられないのか、息子にとってもっと生きやすい環境を探したいという思いから転園を考え始めました。そんな時に、どろんこ保育園ができることを知り、HPの『異年齢・インクルーシブ保育』『障害の有無に関わらず全ての子どもがいろんな体験をする』というフレーズを見て、直感で『これだ』と思ったことを今でも覚えています。就学まで残り1年ではあったけれど、最後の1年だからこそ息子にはこういう環境で過ごしてもらいたいと転園を決めました」
転園後の変化で最初に感じたことは、「先生に興味を持ったこと」だったそう。
「転園するまで先生の話は一度もしたことがなかったのですが、とても楽しそうに先生と話したことや一緒に遊んだことを話すようになりました。担任以外の先生の名前も全員覚えていたと思います。言葉の遅れもあり行動が先になりがちで自分の気持ちをうまく伝えられず誤解をされてしまうことがあった時など、先生方がさまざまな言葉がけをしてくださったと聞いています。息子の中で保育園がどんどん居心地の良い場所になっていったんだと日々の会話の中から感じていました。一年を通して自分に対して自信を持てるようになったのは、先生方が、息子が得意なことや好きなことをたくさん見つけてくださり、たくさん褒めてくれたからかなと思っています。その積み重ねの結果、小さい子に本を読んだり、靴を履かせてあげたりなど、今まで見られなかったお兄さんとしての姿が見られるようになりました。異年齢で過ごすことができたからこそだと思っています」
1年生になった今、普通級に通っているお子さまの様子も教えていただきました。
「今でも卒園アルバムやDVDをよく見返しています。小学校の先生や友だちにもどろんこ保育園のことをよく話しているようです。たった1年ではありましたが、守谷どろんこ保育園で過ごした1年は間違いなく彼の支えになっていると実感しています」
後藤様は異年齢・インクルーシブ保育について、「小さい頃から異年齢の友達や障害がある子どもたちと関われることは、お互いいろいろな友達がいることの気付きになっていって、その気付きが、子どもたちが大きくなった時にそれぞれが生きやすい社会を築いていける一歩になることもできるのかなと。大人になれば異年齢で関わることは普通になってきますが、それが小さいうちから自然に経験できるのは素晴らしい」とも語ってくださいました。
安永理事長の話だけではなく、現場の施設長や保護者の方の講演にうんうんとうなずいてくださる会場の参加者の方々の様子に、保育現場に関わる方々のマインドが変わる手応えを感じました。これからも、「なぜ今、異年齢・インクルーシブ保育が必要なのか?どう実践するのか?」を発信し続けてゆきたいと思います。
関連リンク
どろんこ会理事長 安永愛香が「保育博2021」の主催者特別セミナーに登壇しました
後藤様のお子さまが入園されてからの1年間、守谷どろんこ保育園でのインクルーシブ保育の具体的なエピソードは、こちらの記事をご覧ください。