どろんこ会のシンボル「ヤギ」vol.3 安永理事長に聞く「なぜ保育園でヤギなのか?」
2022.09.15
本連載ではどろんこ会グループの各施設で愛されているヤギと、ヤギに深く関わるスタッフやその活動ぶりを紹介してきました。第3回目となる今回は原点に立ち戻りたいと思います。
「そもそもどろんこ会グループはなぜ保育園でヤギを飼うのか?」
そのルーツを探るべく、安永理事長にインタビューしました。
エコな循環を可能とするヤギ
どろんこ会グループがヤギを飼い始めたのは2007年、埼玉県朝霞市でのグループ初となる認可保育園の開園がきっかけでした。
—さまざまな飼育動物がいる中、なぜヤギを選んだのでしょうか?
「理由としては主に5つありました。一つ目は生き物を飼うことによりその生死の瞬間に立ち会うというリアルな体験を通じて生死を体感、認識するということを子どもたちに教えたかったからです。当時未成年による事件などをニュースで目にするたびに、子どもたちの人格形成期に命の重さを理解することの大切さを感じていたこともあります。二つ目は、ふんの始末や小屋の掃除といった生き物を世話をする、自分の身の回りのことを自分でするということを教える教育的側面があったからです」
—となると、ヤギでなくてもよいのではという疑問が出てきます。
「私もそう思いました。そもそも私もヤギを飼ったことはないし本当に初めてのことで、不安もありました。ですのでヤギについてとにかく猛勉強しました。飼うからには責任をもたなければなりません。自分で確信ができるまで調べ、『全国山羊ネットワーク』の会員にもなり、全国津々浦々で開催される勉強会に、当時まだ幼かった自分の子どもを連れて参加もしました。その中で学んだのは、ヤギは古来から日本人の生活に密着してきた生き物であること、そして情操を育むために高齢者施設などでも飼育されているといった事例があることを知り、子どもの情操教育にとってもよいのではと考えたからです。これが3つ目の理由ですね」
—さらにヤギを飼う利点があるのでしょうか?
「私たちにとってとても大きな決め手となった4つ目の理由としては、ヤギは非常にエコだからです。どろんこ会グループ最初の認可保育園となった朝霞どろんこ保育園の目の前には黒目川が流れています。土手の雑草の伸びがすごく、埼玉県が莫大な費用をかけて整備をしています。そこにヤギがいれば、1頭につき1日3キロの草を食べる(※)ので整備の役に立つことができるのではと考えました。また、草だけを食べたヤギのふんは畑の堆肥にすることができます。42℃くらいの温度で発酵をさせ畝づくりの際に土に混ぜると、栄養価の高いおいしい野菜を育てることができます。こういったエコな循環を可能とする生き物なのです」
※全国山羊ネットワークによると、体の維持に必要な目安は乾物で1日あたり体重の2.4%を給与。例えば体重約40kgのヤギに水分70%の生草を与える場合は、1日あたり体重の8%=3.2kgを餌とする。
—飼育面で大変なことはなかったのでしょうか?
「ヤギのふんは牛のようにべったりしていないので集めやすいのです。そのため子どももほうきとちりとりで掃除をすることが可能です。オスはふん尿のにおいが強く、それを壁などにこすりつけることで強さや権威を示すのですが、メスのものはにおいも強くなく、木酢液を振りかけるだけでそのにおいも消えるので、どろんこ会グループではメスのみを飼っています。衛生面でも飼育しやすいというのが5つ目の理由です」
子どものみならず大人の生きる力も育むヤギの飼育
—最初のヤギはどのように探して、迎え入れたのでしょうか?
「たまたま全国山羊ネットワークで知り合った会員の方から山形県米沢市で生まれたということを教えていただき、私と高堀代表、そして朝霞どろんこ保育園の当時の施設長と一緒に皆で車に乗って迎えに行きました。私が特にこだわっていたのは日本ザーネン種の無角のタイプでした。日本ザーネン種は大型なのですが比較的性格が温厚で安全に飼うことができます。実はヤギはサイズが小さくなるほど気性が荒くなるのです。その中でも無角にこだわって探していました。今は各施設に飼育を任せているので、中には角を取り除いているヤギもいますが、その除角のタイミングなどを間違うと脳症で子ヤギが死んでしまうこともあるので、飼育するスタッフも自ら調べ、責任をもって育ててもらいたいと思っています」
—2007年に朝霞どろんこ保育園が開園した当時は本社も園の2階にあり、安永理事長もヤギの世話をしていたと聞いています。ヤギを飼育してよかったというエピソードがあれば教えてください。
「自然界にいるヤギは年に2回、しかも生後6か月から出産します。出産することで健康を保ち、20年近く生きることができます。飼育する以上最低でも年1回は出産させてあげることで長ければ15年ほど生きることができるので、私もがんばって毎年種付けをして、出産に立ち会いました。運営する園が増えても出産計画書をつくり、生まれたらどの園に連れていくかなどすべて采配していたころもあり懐かしいですね。生まれた子ヤギは2時間後には走ることができるので、園庭に放すとぴょんぴょんと駆け回り、それを見た子どもたちが楽しそうで感動している姿を見ることは本当にうれしかったです。生まれた赤ちゃんが他の園に行くことになった時に子どもたちが大泣きすることもあって、そういった一喜一憂する表情を見ることができたことも幸せでした」
—一方でヤギを飼うことで困ったことなどはありましたか?
「横浜市内で保育園を建設している時、ヤギはくさいのではないか、うるさいのではないかと心配されるご家庭がいらっしゃいました。私は雌雄の違いや発情期の鳴き声の対処方法などこれまでの経験に基づいて丁寧に説明して理解を得るようにしました。住宅街での飼育はご近所への配慮もしなければならないので、毎年の種付けの実施や、複数頭で飼うことで、ヤギの精神状態を安定させることがポイントです。
ただ実際に飼ってみた私の実感としては、ヤギは思っていた以上に温厚で育てやすく、人間に慣れて安心して暮らすことのできる生き物ということ。ただ一方でとても神経質でもあります。自分の足にリードがからまったときにパニックになって泡を吹いて倒れてしまい、私が助けたこともありました。
このようにヤギを飼わなければ知ることのできない経験を私もたくさんしました。そういう意味では、子どもの生きる力を育てる大人の生きる力を育むことができ、子どもたちにどのような体験が必要なのかを想像力を働かせたり、探究したりするためにも、ヤギを飼うことはとても有効なのではと思っています。若い保育士の皆さんにもヤギの飼育を楽しんでもらいたいと願っています」
どろんこ会グループの全国各地の園では楽しみながら、時に試行錯誤しながら、子どもたちと共にヤギを育てています。ぜひお近くの園のヤギに会いに来てください。
関連リンク
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