触覚科学×保育。かがくのとも 『さわる たんけんたい』のワークショップを開催

2023.03.30

#保育

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かがくのとも 2021年12月号『さわる たんけんたい』(福音館書店)の作者であり、触覚科学の研究者である慶應義塾大学 環境情報学部 仲谷正史准教授を講師に迎え、読売ランド前どろんこ保育園(神奈川県川崎市)にて、『さわる たんけんたい』ワークショップを、スタッフ向けと5歳児向けの2回に分けて開催しました。どのようなワークショップだったのか、当日の様子をレポートします。

スタッフ向けワークショップ:触覚は子どもの行動の背景を理解するヒントの一つ

1回目はスタッフ向けのワークショップです。読売ランド前どろんこ保育園と近隣の美しが丘どろんこ保育園(神奈川県横浜市)のスタッフが参加。まずは絵本の内容に沿って、触覚の基本的な知識や大人と子どもの感覚の違い、保育の中で「触って感じる」体験活動をどのように進めていくと良いのかなどをレクチャーいただきました。

触覚の話をされる仲谷准教授
スタッフ用の絵本もご用意してくださいました

仲谷准教授によれば、人は触覚から感じているものだけでなく、視覚や聴覚、嗅覚、味覚も連動して、材料の性質や触り心地などの質感情報を総合的に判断しているとのこと。触ったり、触れられたりした時に「心地よい」という感情が生まれることについては、神経科学的には心地よく感じる速度や神経の応答特性があり、その他に本人の経験が関係していたり、また誰に何で触られるかによっても違ったりなど、さまざまな要因があるそうです。日によって感じ方が違うこと、気持ちと触覚の関係などの話もあり、触覚の視点から子どもが見せる日々の行動の背景を探るヒントもいただきました。

触覚の錯覚体験
カードに印刷した100ミクロンの凸凹を触って、触覚の錯覚も体験

触って感じる体験に大切なこととは

仲谷准教授ご自身が触覚に関するワークショップで心がけていることも教えてくださいました。

「『こう感じますよね、こうですよね』と言って、自分が感じたことを押し付けるような、いわば『感覚の先取り泥棒』をしないように心がけています。『どう思いますか。どう感じますか』と尋ねるようにして、答えてもらった相手の感じ方を『そうなんですね』とまずはそのまま受け止めるようにしています」

そこで出たのがスタッフからの「まだ話せない乳児、感じたことをまだ言葉でうまく表現できない年齢の子どもへの言葉がけはどうしたらよいのでしょうか。『つるつるだね』など、保育者が自分の主観で伝えてよいのでしょうか」という質問です。

「そのような言葉がけで大丈夫だと考えます。子どもは、まずは『つるつる』という言葉があることを知ることが大事です。成長していく幼少期に、他の子から『つるつるとは違う』と言われたりもしながら、人にはさまざまな感じ方があることに気づいていきます。『〇〇ちゃんはああ言っていたけれど、自分はこう感じる』という言葉、子どもそれぞれの感じ方を『そうなんだね』と受け止めてあげてみてください。そうすると、『ああ、どんな風に表現してもいいのだな』と幼心ながらにも気がついてゆくと思います」と仲谷准教授。

参加したスタッフたち
初めて聞く触覚の話に、参加者からさまざまな質問がありました

他には「子どもが感じたことに対して、分かりにくかった場合に、どう反応すればいいでしょうか」「保育園での活動中も含めて、幼少期にはさまざまな触覚を体験する方がよいのでしょうか」との質問も。

「例えば何かに触れて『つるざら』と表現する子もいるかもしれませんね。でも『つるざら』って、初めて聞いたときに、にわかにはよく分かりませんよね。そんな時は『どのあたりがつるで、ざらなのかな』『他につるざらってあるのかな』と質問を展開して、子どもなりの感じ方、表現を分解してみることが、長い目で見ると感性を大切にしてあげることにつながると思います。触る体験については、子ども一人ひとりの感じ方や感覚の敏感さが違うので、無理にさまざまな物に大量に触れさせる必要はないと考えています。たとえどろんこ保育園に通っていても、どろんこ遊びが嫌いな子もいますよね。まずは触れる機会を作ってみて、それを喜ぶ子は触れることを促進してあげるといいと思いますし、嫌がる子にはどのようなところが嫌なのか、どう感じているのかなどを丁寧に聞いてあげることが大事だと思います」と、仲谷准教授は話してくださいました。

硬さの違う造形物を触る体験
自分の好きな触り心地を伝え合うスタッフ

最後に、仲谷准教授が3Dプリンタで造形した研究成果物に触れる体験をしました。同じ素材で作られていますが、硬さが異なっています。造形物を一つ一つ触りながら、どの触り心地が好きかなど、スタッフ同士で大いに盛り上がっていました。

子ども向けワークショップ:触り心地・感じたことを言葉にする体験

子ども向けワークショップには、読売ランド前どろんこ保育園と美しが丘どろんこ保育園の5歳児が参加しました。

絵本『さわる たんけんたい』の一部のページを読みながら、さまざまな触素材を触ってみる体験を実施しました。晴天で気温が高ければ、園庭や里山で自然物を集める予定で準備していましたが、あいにくの曇天で気温も低かったため、園の室内にある普段から遊びの時間に使っているブロックやボール、工作用のさまざまな資材を触素材として選定し、ワークショップに使用しました。子どもたちはそれぞれ気に入った触素材を手にとって、いろいろな触り方を試してゆきました。

保育室内から集めた触覚素材
保育室内にある触素材でも簡単にできる『さわる たんけんたい』ワークショップ

仲谷准教授が一人ひとりに「どんな触り心地がする?硬い?柔らかい?温度は冷たい?温かい?どんな感じがする?」と言葉をかけていきます。子どもたちは「気持ちいい!」「柔らかい」「冷たいところと温かいところ、硬いところと柔らかいところがある!」と、感じたことを思い思いに言葉にしていきました。スタッフ向けのワークショップで話があったとおり、仲谷准教授は子どもたちが言葉にするきっかけを作りつつも、最後に必ず「どんな感じ?」と子ども自身の感じ方を聞いていました。

足でブロックを触ってみる子
ブロックを足で触ってみたら…

絵本のページを示しながら、最初に触った物をいろいろな方法で触ってみることも、子どもたちに提案してゆきます。手だけでなく、足で触ってみたり、頭に乗せてみたり、体に巻いてみたり。「ブロックは手で触ると硬いけど、足で踏んでみるとちくちくする」といった身体部位によって感じ方の違いがあることに気づいたことを話す子も出てきました。最後に子どもたちは「いろいろな物に触ってみて楽しかった」「粘土には硬いところと柔らかいところがあった」と感想や気づいたことをそれぞれに発表し、ワークショップは終了しました。

子ども一人ひとりに問いかける仲谷准教授
普段保育の中で使っている物でも、触り方次第でさまざまな触り心地があることを発見

「自分が感じたことをありのままに話していいんだ」という経験をしてほしい

ワークショップ終了後、読売ランド前どろんこ保育園の松久保施設長は「普段から子どもたちはいろいろな物を触っていますし、今回使った物も普段から触り慣れているのですが、『感触はどうか』まで考えたり、言葉で表現したりすることはあまりなかったことに気づきました。自分が感じた感触を表現する機会となりました」と振り返りました。

子どもたちとの記念撮影
さまざまな触り心地、感じ方を楽しんだワークショップでした

仲谷准教授も「乳幼児期の間にいろいろなものに触れてみる経験は大切です。が、SNSのタイムラインのように、ただ流れていくような情報を見聞きして経験を増やしてゆくのは、乳幼児期にはそこまでは具体的な意味をなし得ないのかもしれません。それよりも、具体的な体験に対して、『どんな感じがする?』と聞かれ、自分が感じたことをありのままに話す経験が大切なのではないかと研究者の私は考えています。何かを問われると『正解しなければいけない』と身構えてしまったり、世の中にある常識を回答することが正解とみなしてしまいがちな社会風潮ではありますが、触り心地については一人ひとり違い、正解はありません。今回の『さわる たんけんたい』ワークショップを通して『自分が感じたことを、そのまま話してもいいんだ』という経験をしたことが、その後のその子にとっての自信になる機会になればと考えています」と語ってくださいました。

2023年度は親子で楽しめる『さわる たんけんたい』ワークショップも検討しています。詳細が決まり次第、どろんこ会グループHPやSNSなどでご案内いたします。

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読売ランド前どろんこ保育園施設情報

美しが丘どろんこ保育園 施設情報

かがくのとも 2021年12月号『さわる たんけんたい』(福音館書店)

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