保育の質・未来の環境に本気で取り組むどろんこ会 ISO9001とISO14001を取得した理由
2023.04.20
どろんこ会グループでは2022年10月にISO14001:2015を4施設(朝霞どろんこ保育園、ふじみ野どろんこ保育園、メリー★ポピンズ エスパル仙台ルーム、子ども発達支援センターつむぎ 浦和美園)で新たに認証登録しました。それ以前にすでにISO9001:2015も取得しており、あらためてなぜ保育事業者としてISO規格を取得したのかを安永理事長にインタビューしました。
ISO9001、ISO14001とは?
ISO9001とは「一貫した製品・サービスを提供し、顧客満足を向上させるためのマネジメントシステム規格」のことで、世界で170か国以上、100万以上の組織が認証を受けている国際的な規格です。つまり、保育事業者にとっては国際的な水準に達した品質の保育サービスを提供していることが外部機関によって認められた証しとなります。
ISO14001とは「環境を保護し、環境パフォーマンスを向上させるためのマネジメントシステム規格」を指しています。保育事業者はこの認証を取得することで、保育活動において環境へのダメージを持続的に低減できるよう、国際的な水準で管理しているということが認められることになります。
ISOはいずれも主に以下の流れで認証を受けます。
1. 方針・目標の設定
2. マニュアルの準備、運用体制の確立
3. 実際の運用
4. 内部監査と是正処置
5. 登録審査
どろんこ会グループでも内部監査室を設けており、1年を通して各施設1回以上は監査を実施し、各施設のサービス内容をチェックしています。ISO9001については外部の認証機関の審査が入り、1996年以降毎年10施設ずつ受審し、間もなく全施設の審査が完了する予定です。
取得後は下記の図のようなPDCAサイクルを回し、ISO9001では「質の高い保育サービス」、ISO14001では「よりよい環境の実現とインクルーシブな社会の構築」を目指します。
ISO9001 園児の命を守るためルールを順守する
安永理事長は2000年ごろにはすでにISOの取得を視野に入れていたと言います。まだ10数施設の運営だったころから施設長と話し合いを重ね、現場で得た知見をもとに独自に「保育品質マニュアル」を定め、毎年改訂を繰り返してきました。そしてマニュアルの内容が充実したタイミングの2016年、ISO9001:2015の取得に至りました。
—そもそもなぜISO9001を取得しようと考えたのでしょうか?
各施設が提供する保育サービスの足並みをそろえたかったというのが一番にあります。創業当初は私が施設長としてスタッフ全員の顔と名前を覚え、各人の性格や特性を理解したうえでのマネジメントは100人くらいまでは可能でしたが、500人を超えると難しくなりました。
例えば子どものケガの対応、嘔吐物の処理の仕方、水遊びの方法など一歩間違えば子どもの命に関わることについては、全員がマニュアルを守る組織をつくらねばなりません。マニュアルには現場が本当に必要だと思うことを盛り込み、それを私が指示するからではなく、一人ひとりが自律的に守れるような組織体質にしたかったのです。
改訂を重ねてきたマニュアルには、日々の保育や給食、園児の健康管理、危機管理、衛生管理、感染症対応、虐待など多岐にわたり書かれています。毎年スタッフ全員に貸与され、全員がルールを順守することで子どもの命を守ることを徹底しています。
ISO14001 子どもの未来のために本当に必要な環境教育を
2023年度版の保育品質マニュアルには、新たに「Doronko環境マネジメントマニュアル」の項目が追加されました。どろんこ会グループでは創業時から子どもに生きる力を育むため、畑仕事、田植え・稲刈り、生き物の世話など自然の中での「直接体験」と「労働」を重視してきました。それらの取組はよりよい環境の実現に密接に関わっています。
—ISO14001の取得理由もお聞かせください。
全施設の足並みをそろえたかったというのはISO9001と同じですが、ISO14001の場合はその他3つの理由があります。
現場のスタッフは子どもたちの未来を本気で考え、畑仕事をはじめ生き物の世話やコンポスト作り、給食残渣の測定など、子どもたちに今本当に必要だと思う環境教育に真面目にこつこつと取り組んでいます。現場が自分たちの取組に対して誇りと確信をもてるようにしたいと思ったことが一つ目の理由です。
二つ目は、今後の幼児教育をどうすべきかを現場の一人ひとりが考えるベース作りをするためです。私たちが保育園を開園した1998年と現在では、世界的にも環境への意識が大きく変化し、小学校、中学校、高校、大学でも環境教育が進んでいます。その中で保育園においてもこれまでの取組をそのまま続けていくだけではなく、どのような環境教育が必要かを考えなければなりません。
三つ目は、人格形成に重要な乳幼児期にこそリアルな体験にこだわらなければならない、保育園はそういう場所であらねばならないというメッセージを発信したかったからです。子どもたちが大人になるころには今よりさらに技術が進化し、月への旅行やAIやロボットと仕事をするような、かつては夢と思われていたことが現実になる未来が到来します。だからこそ直接体験が大事になると考えています。
—ISO9001とISO14001の取得にあたってどのような準備が必要でしたか?また参考にした他の事例などはありましたか?
いずれも10年以上前から計画し、ある程度描いている未来に対していつ何をすべきかを逆算して考えて現場に伝えてきたので、ある日突然何かをしなければならないということはなかったと思います。ISO9001については同業他社の状況を確認しましたが、会社の規模が違ったため参考にできませんでした。ISO14001については、他社で見られるようなフローリングや照明といった内装に対する取組ではなく、子どもの未来を見据えた時に今何をするべきなのかという行動そのものに対する審査を受けました。畑仕事や生き物の世話を通じての環境教育はもちろん、給食残渣を減らす取組もあります。表面的なことだけではなく、保育園運営全体において環境に対して幅広くできることに取り組んで取得に至りました。
—ISO14001を取得したことによる保育園運営へのインパクトはどのようにお考えでしょうか?
子どもの命に関わるISO9001と違って、ISO14001は取り組まなくてもリスクにはならないため、個人の考え方や各施設の風土に左右されやすく、現時点では残念ながらスタッフ全員の意識の差がまだあると言わざるを得ません。
グループ内には園庭があり広い畑をもつ施設もあれば、駅ビルの屋上や、園庭がなく市民農園を借りて畑仕事に取り組んでいる施設もあります。施設の立地や環境に左右されず、さまざまなスタイルの施設が受審することで全施設が一定の水準以上の取組ができるようになり、今後意識の差が埋まっていく効果があると考えています。
また、保育品質マニュアルにISO14001:2015の規格を適用するとした環境マネジメントマニュアルの項目を追加した際に、10年後に目指す姿を明確に示しました。各現場が今から10年後に向かって事業計画をつくることができることに意味があったと思います。
—ISO14001:2015の取得による今後法人が目指す姿とさらなる取組を教えてください。
南魚沼生産組合での米生産による自給自足、2022年からはDoronko Agriでの野菜の生産も始めました。今後は卵、肉、魚も順にチャレンジしていきたいと思っています。飼育・生産拠点はエリアごとに分け、就労支援と組み合わせながらグループ内で生産者の顔が見える農作物を作っていけたらと考えています。
また数年前から社内で新規事業・サービス提案制度を始めましたが、若いスタッフは環境に対して非常に高い感度で提案をしてくれました。保育士としてのキャリアは浅くとも、未来を思う気持ちは一人ひとりがもっています。その想いを形にする会社経営をこれからも目指します。