早稲田大学大学院の研究にどろんこ会が協力 学童x保育園 併設施設の可能性を探る(前編)
2023.08.10
学童保育室を併設している日高どろんこ保育園(埼玉県日高市)では、早稲田大学大学院人間科学研究科佐藤将之研究室からの依頼を受け、昨年1年間「子どもの居場所としての保育所・学童保育複合施設の可能性」をテーマとする調査に協力しました。
今回調査を担当された三國さんに、調査での気づきや保育園と学童の併設の意義などについて、お話をお伺いしました。
保育園から学童へ 急激なギャップにショック
そもそもなぜ、保育所と学童というテーマを研究に選んだのでしょうか?実は三國さんのお子さまが学童に通い始めたことがきっかけだったと言います。
「学童の登室初日は私も張り切ってしまい、息子の大好きなものばかりをお弁当に詰めて持たせたのですが、保育園の時には食べられたはずの量を残してきたのです。話を聞いても放心状態で・・・。子どもにとって、3月31日から4月1日の環境移行はあまりに急激なギャップがあるのだということに衝撃を受けました。
考えてみれば周りは全く知らない年上の子ばかり。初めての学童に対する私の緊張も伝わって、さらなる緊張状態で食べられなかったのだと思います。昨日までは保育園の中で一番年上で『さすがだね』と言われていたのに、翌日から最年少の扱いになる。それは仕方のないことですが、もし保育園が近くにあり、ほっとできるような環境と行き来しながら徐々に慣れていければ子どもにとっても親にとっても不安が減るのではないかと考え、複合施設について調べ始めました」
すると、建物は分かれていて園庭で交流をしている施設があったり、保育所と学童保育室が隣り合ってはいるものの交流はなく自由な行き来もできない施設だったりと、さまざまだったと言います。そこで園児と小学生が関わり合いながらそれぞれの居場所を形成している事例を調べ、園の環境と子どもたちの関わり合いがどのように相互作用しているのかを知るために調査を始められました。
園舎の配置と園庭のつくりがポイント
まずは日高どろんこの施設のつくりについてお伺いしてみました。
「2点素敵だなと思うことがありました。一つ目は園舎の配置です。保育園の門を入ってすぐのところに学童がありますよね。振替休日や長期休みに朝から小学生がいると、園児たちにとっては今日は一緒に遊べるなど、すぐに存在に気づくことができるからです。園児の保護者も送迎時に必ず前を通るので学童の存在を認識できます」と言います。
「二つ目は園庭のつくりです。築山やたくさんの木があることで、小学生は自分の存在に気づかれずに園児の動きを見守ることができていました。小学生は園庭遊びの際に園児とぶつからないようにと、とても配慮していました。でもじっと見ていると園児が意識してしまうので、自然物を上手に利用しながら見守る、そんな様子が見られました」と三國さん。
今回の調査では、小学校の通常授業後、長期休みや振替休日などの1日学童で過ごす日など、さまざまなパターンで子どもたちの行動観察を実施。園庭にビデオカメラを設置し、園児と小学生の交流シーンを300以上撮影して子どもたちの行動を分類したとのこと。その中から幾つか印象に残ったエピソードをお話しいただきました。
小学生と幼児の関係性があるからこそ生まれる行動
最初に挙げていただいたエピソードは、異年齢の交流です。
「特に覚えているのは2歳児と5歳児と小学生の交流シーンです。2歳児が園庭のタイヤによじ登って飛び降りるという遊びをしていた際に、危なそうなタイミングで小学生がさっとそばに行き、手をつないで手伝っていました。その様子をしばらく近くでじっと見ている5歳児がいることに気づくと、その小学生はさっと身を引いたんです。5歳児が年下の子のお世話をしたいんだろうなというのを慮ったのだと思います。すると5歳児は小学生のやり方を真似して手伝い始めました。その後、小学生は少し離れた場所で泥団子を作りながら、2人の様子をちらちらと見ていたんです。自分は友達と遊ばずずっと2歳児を気にかけていました。最終的に2歳児のお迎えが来たらほっとした様子で急に友達と遊び始めていました。兄弟姉妹関係ではなくとも養護性が働き、さらに年下の子の養護性も成立できるように配慮し、行動をしていたことに本当に驚きました」と。小学生と幼児が同じ空間にいたからこそ見ることのできた行動だと言います。
一定の位置で見守る役目の保育士が交流のカギ
三國さんはさらに、スタッフの配置が子ども同士の関係をつなぐきっかけになっていることを挙げました。園庭遊びの際に築山の頂上に立ち、全体を見渡す役割を果たす「ピンクたすき」を付けたスタッフの存在です。
「保育園の先生が一定の場所にとどまってくれているのがポイントだと思いました。おそらく卒園児と思われる小学生が、ピンクたすきを付けた先生のそばにさりげなくいるんです。園児が来ると遠慮して身を引くのですが、それでも先生に話しかけたり甘えたりできる機会を伺っている様子が分かりました。その時もやはり園庭の木々が役に立っていて、近くの木の陰に隠れつつも先生や園児の様子を見ているんですね。ただ近くにいるうちに、園児と一緒に遊んだり、会話をしたり、お世話をするようになりました。ピンクたすきの先生があちこち動き回らず同じ場所にいてくれたからこそ生まれた交流でした」と振り返ります。
小学校高学年にとっても保育園との併設はメリット
そのほかにも1年生だけではなく、高学年になっても併設だからこそのメリットを感じられるエピソードもありました。
「振替休日で朝から学童が開室していた日のことです。保育園の子どもたちが畑の草取りに行く際に、学童の子どもたちも行きたい子が一緒に行けることになったんですね。高学年になると思春期に差し掛かり難しい年ごろになり、中にはつまらなさそうな様子の子もいました。ただ、そのような子も園児のお世話をするうちに、だんだんと自分から園児たちに言葉をかけたり、ほめたり、年上としての役割を果たすようになっていました。こういった戸外活動での交流も小学生にとっては息抜きになっていいなと思います」とお話しくださいました。
このようにさまざまなメリットをお話しくださった三國さん。後編では学童保育の待機児童問題や学童保育の質、そこで考えられる学童保育室と保育園を併設する意義についてお伺いします。
後編:早稲田大学大学院の研究にどろんこ会が協力 学童x保育園 併設施設の可能性を探る(後編)