保育園の防災、どうしてる? 全スタッフ一丸となって子どもを守ります
2023.09.28
9月は防災月間。そして今年2023年は関東大震災から100年。大切な子どもたちの命を預かる保育園において、災害への備えは必須です。では実際に保育園ではどのような対策を行っているのでしょうか?中里どろんこ保育園(東京都清瀬市)での避難訓練の様子を取材し、日ごろの備えについてスタッフにインタビューしました。
本番さながらの避難訓練を毎月実施
子どもたちが水遊びの準備をしたり、縁側で遊んだり、自由に過ごしている時間。突然「火事だ」と、緊迫したスタッフの声が響きました。
すると、1階にいたスタッフは一斉に子どもたちを集め、玄関付近に並ばせました。乳児が過ごす2階からはスタッフが抱っこやおんぶひもで子どもを背負い、あるいは手をつないで急ぎ降りてきて集合しました。スタッフはすぐさま子どもたちの人数確認と名前を確認し、リーダーに報告。別のスタッフは防災リュックを背負いながら子どもたちの靴をかごにさっとひとまとめにして準備しました。
この間、子どもたちはふざけることなく、終始真剣な表情です。中には「落ち着いて」と声をかける年長児もいました。
この日は、園庭にあるヤギ小屋から出火したという想定で、避難訓練を行いました。
訓練終了後、主任の斉藤さんは子どもたちに「今日は調理室ではなくヤギ小屋から火が出たので玄関の近くに集まりました。みんながここに集まるまでの時間は3分でした。とても早く移動でき、素晴らしかったです。火の元からできるだけ離れた場所に移動する、ということを覚えてください」と振り返りを伝えました。
訓練を終えた子どもたちはほっとした表情で日常生活に戻っていきました。
スタッフも緊張感をもちながら避難訓練に臨む
どろんこ会グループでは主に火事や災害を想定し、毎月1回必ず避難訓練を実施しています。
中里どろんこ保育園では、毎回異なるスタッフが避難訓練の計画作成を担当し、いつでも誰でもできるようにするためにリーダー、消火、通報といった役割分担をローテーションしています。時には発生時間も伏せて抜き打ちで実施することにより、スタッフの緊張を高める工夫もしています。
斉藤さんは「訓練を行う際にはスタッフの表情や行動が何より大事だと思います。毎月のことなので、幼児になると先の行動を読んで力を抜いてしまうこともあるため、職員が声色をいつもと変え、真剣に急ぎ、メリハリをつけた行動をすることを意識しています」と話します。
スタッフの真剣さが伝わっているのでしょう。子どもたちの中には「避難訓練が恐いからその日は来たくない」と言う子もいたほどだと言います。
「実際、年度始めの4月ごろは、訓練の時に泣く子も多くいました。ただ、災害が起きた時、不審者が侵入してきた時、恐いのは当たり前で、それだけ訓練に真剣に取り組めたことだからすごいことだということを子どもたちには伝えています。また、有事の際にはスタッフを信頼してついてくれば大丈夫という安心感をもってもらえるよう常日頃から話しています。それは乳児も同じで、保育園にいる時は先生が守るということを簡単な言葉で伝え続けています」と斉藤さん。
今回訓練のリーダーを務めた野澤さんも実際、訓練時は厳しい表情ながらも落ち着いた言葉がけをしていました。
「実際に災害が起きた時には、大人も子どももパニックになると思います。だからこそ子どもたちには落ち着いて端的に分かりやすい言葉がけを心がけるようにしています」と振り返ります。
ライフラインが止まったらどうする? 火、水の使い方を学ぶ
避難訓練のあと、こめ組(5歳児クラス)の子どもたちは火起こし体験と水道が使えなくなった時を想定してペットボトルを使った簡易水道の使い方を学びました。
- 日ごろ何も考えずに使っている水道の水が出てこなくなったら?
- ガスが使えずいつもの給食が作れなくなったら?
- 電気がつかず真っ暗になってしまったら?
そんな時にどのような工夫ができるのか。最近ではあまり見かけなくなったマッチで、火をつける道具であることを認識し、実際につけてみることでどうすれば火起こしができるのかを実際に体験しました。
また、あらかじめ水を貯めていたペットボトルの下の方に小さな穴をあけると、キャップの開閉によって水が出たり止まったりします。子どもたちは少ない水で手洗いをする練習をしました。
これは看護師の黒澤さんの発案で、2年前から中里どろんこ保育園で「停電の日」と名付けて続けている取り組みです。
黒澤さんは「東日本大震災で被災した際、食料も水も電気もなくて本当に困りました。子どもたちにもこういうことが起こりうる、日ごろ何気なく使っているものがいざ使えない状態になった時に自分たちで何かを見つけ出す体験を一つでもしてもらいたい、そして頭の片隅でよいのでこういうことを経験したということを記憶してもらいたいと考えました」と、自身の体験から企画したきっかけを語りました。
ローリングストックに炊き出し、食の側面からも防災体験
さらに、黒澤さんは調理の新井さんと連携し、火起こしのあとに炊き出しの体験も行っています。
焚き火をして飯盒でお米を炊いたり、自分たちでおにぎりを握る練習をしたり、豚汁をつくったり、サンマを焼いたり、焼き芋をしたり。
園庭での食事や炊き火で暖を取る経験があると、非常時であってもいつも行っている活動をすることで、子どもたちが落ち着ける環境をつくりたいという思いがあります。
調理師の新井さんも、食の側面から常に災害に備えています。
「お米は絶対に必要なので在庫を切らさないよう管理しています。また、どろんこ会グループでは全園でローリングストックを実施していますが、非常食のアルファ米や乾パンを食べたことのない子どもも多いので実際に味わう機会も大事だと思います。私たちスタッフもアルファ米ではおにぎりが作れなかったり、使い捨てのスプーンは乳児には使いづらかったりと、実際に試すことでいろいろな気づきがあります」と、直接体験することの大切さを話しました。
災害時、スタッフは一丸となって子どもたちを守らねばなりません。そのためには保育士、調理、看護師、用務、職種にかかわらず全スタッフが常日頃から連携できていることが大切です。
また、散歩、園庭遊び、川遊び、焚き火、給食といった、日々の体験活動全てから、子どもたち自身も何が危険で何が安全なのか、判断力を身につけられるよう意識しながら取り組んでいます。まさに日ごろからの備えを大事に、安心してお子さまを保育園にお任せいただけるよう、スタッフ一丸となって防災に取り組んでいます。