小1プロブレムで子どもが悩まないために保育園でできること~アプローチカリキュラムと保育要録~

2024.02.22

#保育

発達支援つむぎ ふじみ野ルーム

近年、「小1プロブレム」という言葉をよく耳にするようになりました。小学校に入学したばかりの1年生が、授業中座っていられない、話を聞くことができないなど、小学校での生活になじめず、落ち着かないことが数カ月続く状態を指しています。小1プロブレムは子ども自身や家庭環境、幼児期の教育そのものに原因があるのではなく、保育園・幼稚園と小学校では教育内容や生活環境、生活時間が違い、そのギャップにより生じていると考えられています。

午睡もある保育園の生活
午睡もある保育園の生活

どろんこ会グループでは、子どもたちが「小1プロブレム」に悩まないよう、今の小学1年生の学習指導要領や小学校での教育課程、学び方などを知り、逆算して幼児期に必要な経験や育んでおくべき力を考えながら保育するよう目標を掲げています。

そこで大事になってくるのが「アプローチカリキュラム」と「保育所児童保育要録」です。今回は、これらをテーマに社内で勉強会を開いた発達支援つむぎ ふじみ野ルーム施設長の佐藤さんに、保育園から小学校へのスムーズな接続のために取り組んでいることを聞きました。

つむぎふじみ野ルームの佐藤施設長
発達支援つむぎ ふじみ野ルーム施設長の佐藤さん

幼児期の学びをつないで生かすアプローチカリキュラム

アプローチカリキュラムとは、就学前の幼児が円滑に小学校の生活や学習へ適応できるようにするとともに、幼児期の学びが小学校の生活や学習で生かされてつながるように工夫された5歳児のカリキュラムのことを指します。

「目の前の子どもたちの姿を見て各園でつくっていきますが、保育園、幼稚園に限らず、児童発達支援事業所でも根本は同じです。保育所保育指針に示されている『幼児期の終わりまでに育ってほしい姿(10の姿)』を基本に、子どもたちの育ちを見て、小学校に向けてどのようなことを伸ばしていくとよいかを考えていきます。ただし、一人ひとりのためのカリキュラムをつくるということではなくクラス単位でつくっていくので、5歳児の秋ごろからアプローチカリキュラムが始められるように準備していきます」と佐藤さんは説明します。

アプローチカリキュラムには、3つの活動の柱があるといいます。

・学びの芽生えを大切にした活動の充実

・協同的な遊びや体験の充実

・自立心を高め新しい生活をつくり、安心して就学を迎えられる活動の充実

ふじみ野どろんこ保育園の園庭で活動する子どもたち
ふじみ野どろんこ保育園の園庭で活動する子どもたち

佐藤さんは「どろんこ会グループの保育はもとより小学校に上がってからはもちろん、その先を生きていくための力を育むことを目指しているので、この柱をしっかり押さえていると思います。

学びの芽生えを大切にした活動の例を挙げると、花がたくさん咲いているのを見た一人の子が色水をつくろうと花をつぶし始めました。周りの子は色水の作り方を知ったり、混色に気づいたり、という学びになります。ここからジュース屋さんごっこにつながったりと遊びが展開していきます。さらに和紙を染めてみようといった活動へと発展させることもできます。

このように、誰かの気づきや興味が学びの芽生えとして現れ、それを見ていた周りの子も同じく興味を持って参加していくことで遊びが展開していきます。そして協同的な遊びやさらに充実した体験へとつながっていきます。

子どもたちが自分たちで考えて、話し合いをしながら、見通しをもつことができるよう、大人は全てに介入しすぎないようにしています」と話します。

染め物に挑戦する子ども
発達支援つむぎ ふじみ野ルームで行った染め物体験の様子

また、「年長クラスになったからいきなりこれをしましょうということではありません。子どもが周りの保育者や仲間から認められているといった実感が持てるような環境を整えることが大事です。子どもは不安を抱えているうちは学びに向かうことができないからです。そして、日ごろの活動を存分に行なう中で、さらに子どもたちの力を伸ばすための遊びを広げて深められるような機会を創るという視点を持つことを大切にしています。遊びを広げるということは、自然と他者と関わる機会につながります。時には子ども同士の主張が対立したり、葛藤する場面も出てきますが、その時に話し合いを大切にすることで、相手の気持ちに気づいたり、自分の気持ちに折り合いをつける機会につながり、小学校でさらに多くの人と関わる際のコミュニケーション力となります。さらに遊びを深めるというのは、次の展開を考えて進めることが自然と学びにつながり、『もっと知りたい』という気持ちこそ小学校以降の学びに必要な意欲につながると考えるからです」と強調しました。

ダンゴムシを発見した様子
体験を通じコミュニケーションの意欲を育む保育、支援を行う発達支援つむぎ ふじみ野ルーム

子ども一人ひとりの育ちを伝える保育所児童保育要録

小学校へのスムーズな接続のために保育園で準備するものとして、「保育所児童保育要録」というものもあります。これは、保育園を修了後、小学校へ入学する子ども一人ひとりの「子どもの育ちを支えるための資料」として保育園が作成し、小学校へ送付するものです。アプローチカリキュラムの作成は任意ですが、要録は義務となります。

佐藤さんのプレゼンテーションより
佐藤さんは社内の勉強会で要録についても解説

スペースに限りのある記録用紙と小学校の先生の忙しさにも配慮し、できるだけ分かりやすく簡潔に書くことがポイントとのことで、特に以下を伝えることを意識しています。

・5歳児の年度で「特に伸びた所」「その子らしさが伝わる内容」

・他児との比較や達成度ではなく本人の中に「育ちつつある姿」

・保育者が行なってきた指導・援助や配慮事項など

児童発達支援事業所のつむぎからは要録は出さないのですが、保護者様のご希望に応じて就学支援シートを用意しています。就学支援シートとは、小学校入学に向けて、保育園、幼稚園、療育機関、家庭などで今まで大切にしてきたことや、配慮してきたことを就学先に引き継ぐシートです。

「就学支援シートには一人ひとりの強みや課題、どのような場面でどのような関わり方をしてきたのか具体的な配慮事項を記載します。ふじみ野ルームは、ふじみ野どろんこ保育園に併設されているため、専門士と保育士の両方の目線から、多面的に子どもをとらえることができるのがとてもよいと思います」と佐藤さん。

小学校の現場を知り、安心して就学につなげていく

一方で、実際に就学先を訪問することも大事だと指摘します。

「私たちスタッフが小学1年生が実際にどのような学習や活動をしているのかを知らないと、子どもの育ちをつなげていくことができません。そのため自治体主催の説明会や小学校の授業参観などに参加したりして特に4月、5月ごろの様子を知ることが必要です。つむぎの場合は就学先が必ず通常級というわけではないので、支援学級、特別支援学校、通級についても知っておき、保護者の方からご相談をいただい際にお話しできるよう、情報収集が大切だと感じています」と、直接小学校の現場を見るようにしています。

ランドセルや筆記用具を見せてもらう
卒園児を保育園に招き、小学校生活を教えてもらいました

各施設でも小学校との交流に取り組んでいます。2023年度に開園した香取台どろんこ保育園(茨城県つくば市)では、小学校の授業参観や運動会を見学したり、小学校からもどろんこ祭りや運動会に参加してもらうなどの継続的な交流を企画しています。

北千住どろんこ保育園(東京都足立区)では、夏休みを利用して卒園した小学1年生に集まってもらい、小学校のことを教えてもらう時間をつくりました。

そのほか、発達支援つむぎでの就学に向けた取り組みをブログで紹介しています。

発達支援つむぎ 吉祥寺「就学に向けて~小学校に行ってみよう~」

船橋どろんこ保育園「小学校訪問」

小学校を実際に訪問しました
実際に小学校を訪問し、教室の様子などを見学

年長クラスはまもなく卒園を迎えます。小学校入学に向け期待と不安が交錯する日々を過ごしていることでしょう。

佐藤さんは「幼児期にただ大人が指示を出すだけで、子どもが意味を理解せずに取り組んでいるだけだと、小学校に入ってからの勉強や集団行動などがただやらされているという感じでついていけなくなってしまうという可能性も考えられます。なぜその活動をするのか、何のための時間なのかを理解できれば、納得して参加できると思います。保育園や幼稚園では、教育的な要素としてどのような理由があって取り組んでいるのかを子どもたちに納得してもらえるよう意識していくことが大切だと思います」と話します。

皆で方法を考えてはっさくを収穫する様子
ふじみ野どろんこ保育園にて一人ひとりが考え、話し合いながら、園庭に実ったはっさくを収穫する様子

どろんこ会グループでは創業当初から、言うことを聞く子を育てるのでも、指示を待つ子を育てるのでもなく、自分で考え、行動する思考を育むことを理念に掲げ、保育してきました。今後も、子どもたちたちが安心して就学できるよう、先を見据えての逆算思考での保育を全スタッフ全力で取り組んでまいります。

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