乳幼児期から学齢期まで切れ目のない支援を当たり前に ~学童x放デイ 一歩先のインクルージョンを実現した香取台どろんこ保育園~
どろんこ会グループは、認可保育園や認定こども園と児童発達支援センター・事業所との併設施設をつくり、乳幼児期のインクルージョンを推進してきました。
2023年4月には認可保育園と児童発達支援事業所に加え、学童保育室と放課後等デイサービスも一つ屋根の下に収めた、全国でも類を見ない多機能型のインクルーシブ施設である「香取台どろんこ保育園」を茨城県つくば市に開園しました。未就学の時期に障害の有無にかかわらず混ざり合う環境であっても、小学校入学後は学ぶ場を分けられてしまったり、放課後も学童と放課後等デイサービスで分けられてしまう現実がある中、香取台どろんこ学童保育室(以下、学童)と発達支援つむぎ 香取台ルームの放課後等デイサービス(以下、放デイ)におけるインクルージョンはどのような状況なのかをレポートします。
子どもたちが伸び伸びと過ごせる香取台どろんこの学童と放デイ
香取台どろんこ保育園は、つくばエクスプレス「万博記念公園」駅から徒歩10分に位置しています。2階建ての園舎で、1階には認可保育園に通う2歳児から5歳児と発達支援つむぎの利用児が共に過ごす広い保育室と子育て支援室があります。2階には0歳児と1歳児が過ごす保育室、学童と放デイが一つになった部屋が配置されています。
認可保育園の定員は90人で、2024年5月時点で89人とほぼ埋まっている状況です。児童発達支援と放デイの1日の定員は合わせて20人となっています。学童の利用人数は2024年5月時点で21人(曜日によって利用人数は変動)のため、全てを合わせると大所帯になりますが、その人数が十分に伸び伸びと過ごせる部屋と広大な園庭があるため、子どもたちはそれぞれ好きな場所で心地よく過ごしています。
リビングのような部屋で安心してくつろぐ
午後3時過ぎ、香取台どろんこ保育園の目の前に位置する香取台小学校から子どもたちが迎えのスタッフと一緒に帰ってきました。放デイを利用する子どもたちも香取台小学校から来る子が多いですが、中には保護者の送迎で週1、2回利用している子もいます。
部屋にランドセルを置くと、その日のおやつを食べ始める子、ソファで本を読む子、円卓でスタッフと共に宿題に取り組む子、園庭に出て鶏を抱っこしに行く子・・・子どもたちは思い思いに過ごし始めました。
学童と放デイの間には仕切りや壁は一切なく、一つの大きな部屋となっています。当初は可動式の棚を置いていましたが、棚で区切る必要も一切ないことが分かり、現在の広いリビングのような状態になりました。
室内は全面ガラス張りで明るい雰囲気です。窓際にソファや室内遊具が置かれ、中央には机が1台ずつ、まるで教室のように並んでいます。
「部屋のレイアウトは必要に応じて、子どもたちとサークル対話(円座になって皆で話し合うこと)の中で決めています。学校に近づけた方が落ち着くということで今のテーブル配置になっています」と、発達支援つむぎ 香取台ルームの施設長を務める森田さん。
スタッフと話していた高学年の子が「ここに来ている時が唯一のんびりできる」と、ふと漏らしました。小学生になり年齢が高くなるにつれ、習い事などで放課後は忙しくなるようです。香取台どろんこの学童と放デイは、そんな小学生にとって安心してリラックスできる場所のようです。
いろいろな子がいる 多様性を認め合える環境
開園から1年。どろんこ会グループとしても初の4機能を備えた施設であり、スタッフも試行錯誤しながら保育、支援にあたってきました。
保育園の施設長であり、施設全体を統括する立場にもある篠﨑さん曰く「当初はやはりスタッフの間に遠慮がありましたが、つむぎのスタッフが専門的な視点で子どもの行動や保育士の対応に裏付けや根拠をもって説明してくれるなど積極的に働きかけてくれました。そのおかげで全体の保育・教育の質が上がってきたと感じています」。
開園当初、学童と放デイは合わせて10人ほどとこぢんまりと過ごしていました。徐々に利用者が増えてきた背景には、「いろいろな子と関わることができ、さまざまな経験ができること」に魅力を感じて選んでいただいているというのが大きいようです。「5年生以上にもなると、子ども自身が施設とスタッフの質を感じ取り、特に複数の施設を併用していると好き嫌いも出てきます。香取台の周辺にはいろいろな学童や放デイがあるため、子どもたちに選ばれる施設にならねばと思っています」と森田さん。
いろいろな子と関わることができるーーインクルーシブな環境であることが最大の特徴の香取台どろんこの学童と放デイ。森田さんはこの1年を振り返りつつ、「子どもたちは開園当初から一緒に過ごしているので、いろいろな子がいるのだなと認め合っています。もちろんけんかになることもありますが、葛藤や折り合いを学ぶ機会だと思います。スタッフは大きなけがにつながらないように見守っています。子どもたちは共に過ごすうちにお互いの特性を理解し、適切な距離をとったり、伝え方を考えたりするようになりました。また、困っている子には自然と『手伝おうか』という言葉が出てくるようになりました。良い意味でインクルージョンが生まれていると感じています」と併設施設の意義を語りました。
「もちろんそこにはスタッフの関わり方もあると思います。『あの子は支援級に通っているから』と特別扱いをすることはありません。誰とでも同じように接しています。その姿から伝わることもあるのだと思います」と付け加えました。
保育園児も混ざり合う異年齢の環境
香取台どろんこの学童と放デイのもう一つの特徴は、未就学児と関われる異年齢保育・教育の環境にあることです。
ただ、毎日必ず小学生と園児が混ざり合っているということではないと言います。園児たちが学童・放デイの部屋に行く時は小学生たちに確認をとりながら、日々頑張っている小学生が落ち着ける場所を確保することも大切にしています。
一方、園庭に出れば自然と共に遊ぶ姿が見られ、春休みや夏休みなど長期休みの間には、乳児たちの階段の上り下りをサポートしたり、午睡の時間にスタッフと一緒に保育したりと、小学生たちは随所で年上らしさを発揮しているようです。
異年齢で活動することのよさは、リーダーシップ、フォロワーシップが生まれる環境になりやすいことが挙げられます。同じ年齢においてはフォロワーであっても、年下の子や支援が必要な子にリーダーシップを発揮したり、協力して何かを成し遂げる機会を創出しやすくなります。そこで自己肯定感が育まれ、他者と協働したり、衝突したりすることで感情を制御するといった非認知能力を身につける機会が増えていくのです。
放課後の居場所のニーズは高まる一方
現在、小学生の放課後の居場所のニーズは高まる一方です。こども家庭庁が発表した「令和5年放課後児童健全育成事業(放課後児童クラブ)の実施状況」によると、放課後児童クラブの児童登録数は過去最高を更新、障害児の受け入れについては学年別登録児童数の状況を見ても、全ての学年で増加しています。
放課後等デイサービスにおいても、厚生労働省が2022年に出した「児童発達支援・放課後等デイサービス等の現状について」によると、総費用額、利用児童数、請求事業所数とも大幅な増加を続けており、平成24年度から令和2年度の伸びは、児童発達支援が3.5倍に対して放課後等デイサービスは7.8倍という結果が出ています。
どろんこ会グループにおいては学童保育室の設置はこの香取台で2つ目となりますが、放デイと併設することで、放課後の居場所の新たな可能性を示したのではないでしょうか。
森田さんは「今の学童と放デイの子どもたちの様子を見ていると、障害の有無や障害の程度に限らず、子ども同士が遊び、生活を共にし、成長し合っていることを実感しています。そのような機会を制度や施設の種類で阻むことなく、共に過ごせる多機能型の施設は今後も必要だと思います。ただ、環境を一緒にするだけでインクルーシブ保育や教育を達成したことにはなりません。まずは環境を整えたうえで、保育・教育の質の向上を図ることが私たちの使命だと思っています。つくば市内の小学校においても主体的・対話的で深い学びの視点から、サークル対話や異年齢学級といったさまざまな取り組みを行っていると聞き、お互いを尊重、理解し合える機会が増えてきていると感じています。小学校においてそのような取り組みを進めているのであれば、放課後にも学童と放デイの垣根を越えてお互いを尊重、理解し、共に生活していく環境があってよいと私は思います」と語りました。
乳幼児期から学齢期まで切れ目のない支援を行っていることを評価いただき、今年度、第18回キッズデザイン賞も受賞しました。スタッフも常にアップデートし続けている香取台どろんこ保育園のインクルーシブ保育・教育にこれからもご期待ください。
施設情報
関連リンク
令和5年放課後児童健全育成事業(放課後児童クラブ)の実施状況 (令和5年5月1日)