インクルーシブ保育の実践は併設施設だけではない 中目黒どろんこ保育園と発達支援つむぎ 池尻ルームの挑戦ー前編
どろんこ会グループは認可保育園と児童発達支援事業所を一つ屋根の下に併設したインクルーシブ保育園の設置を推進しています。しかし、運営施設を全体的に見れば、併設ではない保育園や単独の児童発達支援事業所が多数を占めています。
東京都内で比較的近い立地にある中目黒どろんこ保育園(目黒区)と発達支援つむぎ 池尻ルーム(世田谷区。以下、つむぎ 池尻ルーム)は、2023年度から単独事業所同士での連携に挑戦しています。別々の場所にある二つの施設がどのようにインクルーシブ保育を進めてきたのか、前編・後編に分けてレポートします。
双方のスタッフがお互いを知ることからスタート
中目黒どろんこ保育園は0~5歳児を預かる認可保育園で、定員は70名と多くの子どもが利用しています。
つむぎ 池尻ルームは1日の定員は10人で、0~5歳児までが対象の児童発達支援事業所です。保育園や幼稚園に所属しながらつむぎを併用したり、就園に備えてつむぎに通うなど、利用の仕方はさまざまです。
今回、単独事業所同士の連携を発案した中目黒どろんこ保育園の中村施設長に経緯を聞きました。
—そもそもなぜ、中目黒どろんこ保育園とつむぎ 池尻ルームが行き来し合うことを考えたのでしょうか?
障害の有無で分けることなく、乳幼児期から共に過ごすことは大切です。併設施設ではなくとも、近隣という地の利を生かすことで双方が混ざり合うことができるのではと考えました。また、つむぎ 池尻ルームを利用している未就園のお子さまがいずれ保育園や幼稚園の集団の中で過ごすことを見据えた時、中目黒どろんこ保育園に来てもらえれば定型発達の子どもと混ざり合って、子ども同士が育ち合う場を提供できるのではないかと考えたからです。
—連携にあたり何から着手しましたか?
まずは双方のスタッフがお互いの施設で実際に保育や支援を体験する時間を取り、それぞれの現場について「知る」ことから始めました。スタッフは保育や支援に関して学んではいるものの、各施設における一日の流れや子どもとの関わりは実際に経験してみないと分からないことが思った以上にありました。特に単独事業所で働くつむぎスタッフは支援が必要な子どもを専門としているため、定型発達の子どもの育ちを見る機会がなかなかありません。現実に子ども同士がどう関わっているのか、またスタッフと子どもがどう関わっているのかを見てもらうことはとても大事なことでした。保育園のスタッフも同様で、つむぎの支援の現場を知ることが必要でした。
異年齢・インクルーシブのよさをあらためて実感
—次に取り組んだのが「青空保育」で混ざり合うことだったと聞きました。
青空保育は、保育園のスタッフが園児たちと共に公園に出向いて絵本の読み聞かせやダンスをするなど、地域の親子と同じ時間を過ごす取り組みです。つむぎの子どもたちにもなじみのある公園という場所で、保育園の子どもたちと一緒にいる空間をつくるところからスタートするのがよいのではと考えました。
つむぎ 池尻ルームに通う子の中に、言葉がなかなか出ず友達と関わりをもつことが難しい未就園の2歳児がいたのですが、青空保育では、最初は様子を見ていましたが、だんだんと自分から友達の輪の中に行くことができました。その姿をご覧になった保護者の方は保育園でも過ごせるかもしれないと自信をもってくださり、中目黒どろんこ保育園での一時保育につなげることができました。
—その後は、夏のどろんこ祭りや秋の運動会の練習にもつむぎ 池尻ルームの子どもたちは参加することができました。そこでの姿はいかがでしたか?
どろんこ祭りでは、最初なかなか室内に入ることができなかったつむぎの子どもたちも、様子を見ているうちに中に入り、一緒にお祭りをとても楽しめました。これまで経験できなかった環境を用意することができたのは大きかったと思います。
また、運動会の練習でも最初は緊張していましたが、難なく一緒に過ごすことができました。見本を見せてくれる年上の園児たちの存在が大きかったのだと思います。異年齢保育のよさもあらためて感じました。運動会という行事そのものが初めてというつむぎの子どももいましたが、保護者の方からは「こんなに一緒に過ごせると思わなかった。この様子なら保育園でも友達と一緒に過ごせるのでは」といった感想をいただきました。
乳幼児期にこそ多様性を肌で感じてほしい
—単独事業所が一緒に活動することにおいて、課題はありましたか?
支援が必要な子どもへの対応を経験したことのない保育園スタッフもいたため、個々の経験値や知識、技量によって、つむぎスタッフとのコミュニケーションがうまくいったりいかなかったりということがありました。
一方、つむぎスタッフは日ごろ集団を見るのではなく、個別の支援計画に基づき利用児一人ひとりを見ています。ところが、保育園と混ざり合って活動すると、担当する子ども以外の保育園児との関わりも自然に発生します。その時に担当の子どもから目を離すことにもなるので、どう対応すべきかを考える必要も出てきました。
—実際に連携に取り組んでみて、双方のスタッフにとって学ぶところが多かったのですね。子どもたちにとってはいかがでしたか?
児童発達支援事業所に通う子も、保育園に通う子も、共に過ごすことでいろいろな人がいるということを知る機会になります。今の時代、多様性といわれますが、この乳幼児期にこそそれを肌で感じることが一番大事だと思います。例えば苦手なことがあるとパニックになってしまう子に対して具体的にどう寄り添えばよいのかであったり、この子はこういうことが嫌なんだということが分かることだけでもすごいことです。共に過ごすことで一人ひとりの生き方や物の見方が広がる機会を得られると思います。
後編では、2024年度になり、池尻ルームでの支援を中目黒どろんこ保育園内で実施するという、さらに踏み込んだ取り組みについてお伝えします。