どろんこ会のシンボル「ヤギ」vol.5 前原どろんこ保育園・発達支援つむぎ 前原ルーム「エリー」編
どろんこ会グループが運営する保育園や児童発達支援事業所の中には、ヤギを飼育する施設があります。
今回は沖縄県うるま市にある前原どろんこ保育園/発達支援つむぎ 前原ルーム(以下、つむぎ 前原ルーム)で飼育されているヤギについて、施設長の2人に語ってもらいました。
子どもたちの良き遊び相手である「エリー」
2019年に沖縄県うるま市で開園した前原どろんこ保育園。2024年5月には、保育園内のスペースを活用して児童発達支援事業所であるつむぎ 前原ルームを開所し、完全併設施設となりました。両施設で園舎や部屋を分けることはせず、一つ屋根の下で子どもも大人も混ざり合いながら家族のように過ごすインクルーシブ保育を実施しています。
前原どろんこ保育園で飼われているヤギの「エリー」は保育園が開園した当時から子どもたちと共に暮らしています。常に穏やかで人懐っこい性格。子どもたちと園庭内を散歩するときも、子どもたちに合わせたスピードで歩いてくれたり、力加減をしながら子どもと相撲をとったりと、良き遊び相手になっています。
沖縄では珍しい「ヤギの保育園」
沖縄県でヤギは、文化的にも歴史的にも特別な存在です。同県のヤギ飼養頭数は全国でトップ※1。天候不良が多い沖縄県では、作物の不作時の貴重なたんぱく源として、病気に強く、雑草を食べてくれるなど、牛よりも飼育コストがかからないヤギが定着したと言われています。本州との流通が増えて食糧需給が安定した現代では、備蓄の意味合いが薄れ、お祝い時に食べる文化が残りました。
つむぎ 前原ルームの施設長である山田さんは沖縄県出身でヤギ汁が大好き。「小さい頃からヤギ汁が日常的に出てくる家庭でした。お祝いごとがあると『ヤギ汁食べに行くよ』と店に連れられ食べ慣れていました。どろんこ会に入職したらヤギが食べられなくなるかと心配でしたが、それとこれは区別できました(笑)」
一方、同じく沖縄県出身で前原どろんこ保育園の施設長であるアイオメスさんは「私は小さいころお祝いごとで食べましたが、ラム肉のように獣臭があって苦手でした。よもぎをいっぱい入れて食べました」と、ヤギ肉は好き嫌いが分かれると言います。
ヤギの飼育についても、沖縄県では「ヤギは家畜」という意識が強く、飼育を目的としていることは珍しいそう。地域の方には「ヤギはいつ食べるの?」「そろそろ食べごろじゃない?」と言われることも。ヤギを食べる習慣がある子とない子で「このヤギ食べるの?」「違うよ」なんて会話が交わされるのも沖縄ならではです。
そんな中、前原どろんこ保育園は地域で「ヤギの保育園」として親しまれており、他の保育園に通う子どもたちからも「今日はヤギの保育園に行くんだよね?」と言われるほど。保護者の方がヤギが好きな葉っぱを届けてくれたり、地域の方が親子でヤギと遊びに来たりと、エリーとの触れ合いを楽しんでいるようです。
子ども同士で関わるきっかけを作ってくれたエリー
ヤギのエリーはただ可愛がられているだけではありません。5月から開所したつむぎ 前原ルームは、保育園と同じ園舎・園庭を共有し、保育園の子どもやスタッフと同じ空間で過ごしています。しかし、もともとある集団に後から入っていくことが難しく、なかなか子どもたちの輪に入れない子どももいました。
そんな中でインクルーシブ保育にも一役買ったのが、エリーでした。
「エリーに興味を持った子どもたちの間で、関わりが生まれました。最初は個々で餌をあげていましたが、次第にお互いの気持ちを図りながら餌やりの順番を決めたり、餌をあげた後に一緒に喜んだり、その中でお互いの名前を覚えるなど、エリーを通じて一緒にという気持ちが芽生えたようです。その後もエリーの移動を手伝うなどの共同作業が生まれていて、穏やかなエリーのおかげで子どもたちは一緒に何かをする喜びを知ることができたのだと思います」と山田さん。エリーへの興味関心が他の子どもたちと関わるきっかけになりました。
さらには、つむぎに通っていた発語が少ない子どもが、ヤギと関わるうちに「めーめー」と言えるようになり、その流れで鶏も「こっこ」と発語につながった例も。生き物が果たす役割は大きいようです。
子どもの思考に気が付かせてくれたエリー
エリーと子どものふれあいは、子どもの成長を促すことだけではなく、スタッフも学びを得る機会になりました。
とある支援が必要な子どもが、当初エリーをとても怖がっており、エリーが近づくだけで身を固くし自分からは決して近寄ろうとはしませんでした。しかしある日、友達がエリーに餌をあげている様子を見て、自分も挑戦してみたくなったのです。最初はスタッフに支えられながら恐る恐る餌を差し出しましたが、エリーが食べてくれた瞬間、その子の顔には喜びが広がりました。それ以来、何度も餌をあげるようになりました。
アイオメスさんは「入園当初、その子は言葉が少なかったので、何が好きで何に興味があるかは行動から読み取るしかありませんでした。最初はとても怖がりで水にしか興味を示さなかったのですが、ヤギへの興味関心が恐怖心を上回ったことに感動しました。モノから生き物へ興味を広げられたのもエリーのおかげだと感じています」と、当時のことを話しました。
また、アイオメスさんがその様子をじっくりと見守っていると、とあることに気が付きました。その子は、ただ餌をあげるだけではなく、色や大きさの異なるさまざまな葉を集めては差し出し、エリーが好む葉を探していたのです。子どもが日々どのような思考で行動をしているのかじっくり見ることが大切であることを、エリーは気付かせてくれたのです。
「子どもの行動には理由があります。日々の行動は点で見てもわからなくても、線で見ると思考や感情が見えてくることがあります。何気ない行動でも記録を取ったり、スタッフ間で子どもの様子を共有し合うことの重要性に改めて気が付きました」と言葉を添えました。
子どもも大人も動物も、混ざりながら育ち合える施設でありたい
アイオメスさんは、今回の児童発達支援の併設について次のように話しました。「今回、児童発達支援を併設したおかげで、専門的な視点を持ってお子さまを一緒に見ていける仲間が増えたことはとても心強く感じています」
また、山田さんは「エリーとの触れ合いを通して子ども同士で関わり合う姿があるように、エリーがつなぎ役となって、つむぎと保育園の子、そして大人も混ざりながら一緒に成長していける、そんな施設にしていきたいと思います」と、今後の抱負を語りました。
エリーは両施設にとって、一緒にいることが当たり前の家族のような存在。これからもエリーが架け橋となり、子どもも大人も一体となって、併設施設がさらにパワーアップしていきたいという思いは2人とも同じでした。
ヤギを通して子どもたちは学び、成長し、そして地域とのつながりも深めていく…。前原どろんこ保育園とつむぎ 前原ルーム にとって、子どもたちを見守る一員として欠かせない存在であるエリー。お近くにお越しの際はぜひ会いに来てください。
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