0歳児から小学生まで 異年齢・インクルーシブ保育を体現した香取台どろんこの運動会
2023年4月にオープンし、2年目を迎えた香取台どろんこ保育園と発達支援つむぎ 香取台ルーム。どろんこ会グループ初、全国的にも類を見ない、認可保育園、児童発達支援事業所、学童保育室、放課後等デイサービスの4機能を併設した多機能型施設です。
10月に一大イベントとなる運動会を開催しました。4機能が一体となっている施設では、運動会のように大きな行事をどのように運営しているのでしょうか。
保育園・発達支援双方のスタッフが企画から携わる
今回の運動会を中心となって取りまとめた保育園スタッフの瀧本さんとつむぎスタッフの佐藤さんにインタビューしました。
瀧本さんは全体を統括する立場で皆をサポートしました。佐藤さんはつむぎに通う子ども一人ひとりの特性や状態を考慮しながら運動会に参加できるよう、園、保護者とのパイプ役を担いました。
練習から当日まで 気持ちの動きを見守る
施設全体で目指したのは「子どもも保育者も共に楽しめる運動会にすること」。遊びの中で子どもたちがやりたいこと、できるようになったことを種目に盛り込み、保護者の方に今の子どもたちの姿を見てもらえるようなプログラムを考えました。
種目については、子どもたちの発達や興味関心に合わせ、乳児、幼児それぞれの担当者とつむぎスタッフが一緒に話し合いながら検討を進めました。
5歳児については自分たちで話し合いをしながら決めました。そこで挙げられたのがラグビーボールリレー。どろんこ会グループが協賛する筑波大学ラグビー部との活動を通じ、ラグビーに興味をもった子どもたち。リレーの前にはハカにも挑戦してみたいと自分たちで言葉や振り付けも考え、披露することになりました。
また、全員で協力して行うパラバルーンもやることに。何度か練習をする中で、時には遠くから見ていたり、ちょっと近づいてみたりしているつむぎの4歳児がいました。
佐藤さんは「集団に入ることが苦手なのですが、いざ当日になると皆と一緒にパラバルーンの動きを楽しむことができました。その子の中では見ることも参加していることだったのだと思います」と、見ることからやってみるところに気持ちが動いたという育ちが、とても大事であることを実感したと振り返りました。
子どもの自己決定を大事に 環境を整えるのが保育者の務め
つむぎを利用している3歳児の子についてはどの種目に参加するのがよいか、スタッフの間で議論を深める機会がありました。
当初は、その子の体力面や歩行の不安定さを考慮して、3歳児の種目ではなく2歳児の種目に参加する方向で話を進めていました。それに疑問を呈したのが施設長の篠﨑さんでした。
篠﨑さんは振り返ります。
「その子自身の姿を見てほしいという思いで、『そのプログラムに参加したいのは誰なのか』をあらためて問いかけてみました。そこでスタッフもはっとしたようです。 最初はその子には2歳児の種目が合っているだろうという大人の見立てが先行していたのですが、もしかしたら3歳児の種目に興味があるかもしれない。楽しめるかもしれない。どちらを選ぶかはその子が決めることであり、大人が決定することではないということを伝えたかったのです」
実は運動会当日、その子は体調不良で欠席になってしまいました。しかし、前日までの遊びの中で3歳児のかけっこを一緒に楽しむ姿があり、その時の表情や視線、体の動きが生き生きしていたのを見て、「できる、できないという見取りではなく、経験の機会を保障し、環境を整えるのが保育者の仕事だ」ということを確信したと話します。
瀧本さんも「安全面を考慮すれば2歳児の種目への参加という判断になる可能性はあると思っていました。ただ、私たち大人がよかれと思ったことでも、子どもの経験を阻害することに気づかされました。もっといろいろな可能性を模索していくことが大事だとあらためて思いました」と、とてもよい問題提起だったと話します。
佐藤さんも「発語が難しいお子さんに関しては本人の希望や選択の聞き取りが難しいこともあります。ただ、最初から決めつけるのではなくいろいろな遊びや活動に触れる機会を創り、そのときの表情や様子を種目の検討事項に加えることで、意思決定の尊重にもつながると再認識しました。気持ちや意志を汲み取ることの難しさをあらためて感じました」と、反省もあったようです。
篠﨑さんは「つむぎだから、保育園だからということではなく、スタッフ一人ひとりが子どもたち一人ひとりに目を向けられるか、大事なことは何かを考え、ベクトルの方向性を調整できるかがカギとなります。だからこそ、その子の姿と育ちに対する視点の持ち方を日々すり合わせていくことが必要なのです」と語りました。
小学生も楽しんだ 異年齢・インクルーシブ保育の運動会
さまざまな話し合いを重ねて迎えた当日。「スタッフの団結力が印象的だった」と佐藤さん。園・つむぎにかかわらずスタッフ全員が協力して創り上げることができました。
瀧本さんは「今年度から学童と放デイの小学生のためのプログラムも企画しました。準備の際には小学生がメダル作りを手伝ってくれ、大人だけでなく子どもも一緒に創り上げることができたと思います」と笑顔で話しました。
大きな築山と高低差のある広大な園庭が自慢の香取台。坂を生かしたかけっこや築山を活用した親子競技などで盛り上がり、また小学生も迫力ある姿を披露してくれました。
瀧本さんも佐藤さんも、子どもたち一人ひとりが今回の運動会でさまざまな姿を見せてくれ、楽しんでくれたことを喜びました。そして、スタッフとして学んだことを生かし、日々と先々の保育と支援の充実に向け、園とつむぎもさらに話し合いを深めていきたいと語り合いました。
篠﨑さんは運動会をこう位置づけます。「スタッフはもちろん、保護者も含め大人全員が子どもの育ちを支え、その日々の積み重ねの一つなのです」と。運動会で何かをやって終わりではなく、日常とつながっているのだと話しました。
異年齢保育・インクルーシブ保育の日常の延長線上で行われた運動会。子どもだけでなく、スタッフにとっても成長の機会となりました。