保育園での乳幼児突然死症候群(SIDS)はどう防ぐ? どろんこ会の午睡中の安全管理
2024.11.28
こども家庭庁は毎年11月を「乳幼児突然死症候群(SIDS)」の対策強化月間と定め、対策への注意喚起を行っています。
SIDSとは、予兆や既往歴のない乳幼児が睡眠中に突然死に至る原因不明の病気です。日本でのSIDS発生率は年々減少傾向にあるものの、2022年には47名の乳幼児が亡くなっています※1。保育施設では2020年に1件SIDSを死因とする事故が報告されています※2。
今回はどろんこ会グループでの睡眠中の事故防止への取り組みについて、SIDS対策を中心にご紹介いたします。
睡眠時の生存確認をマニュアル化して、誰もが確認できる状態に
SIDSは科学的な解明に至っておらず、さまざまな要因が重なることで発生していると考えられています。中でも、うつ伏せで寝たときの方がSIDSの発症率が高いという調査結果※3が出ていることから、睡眠時は体位を仰向けに維持することが重要と考えられています。
どろんこ会グループでは、スタッフ全員がルールを順守することで子どもの命を守ることを徹底するため、現場で得た知見を盛り込んだ「保育品質マニュアル」をスタッフ一人ひとりに貸与しています。その中には午睡中の生存確認の実施方法とSIDS防止策のポイントも明記されており、誰もが適切に生存確認を行えるようにしています。
0~1歳児は5分に1回確実に行えるよう、バイブレーションタイマーで時間を測りながら生存確認を行います※4。チェックポイントは4項目(仰向けに寝ているか/布団や毛布が顔にかかっていないか/呼吸や心拍などのバイタルチェック/体に熱がこもりすぎていないか)、全て確認完了後に社用スマートフォンを使って自社開発の保育アプリ「うちのこ」へ記録します。保護者もこのアプリを通じリアルタイムで情報を見ることができるため、我が子の睡眠状態をこまめに確認することができます。
現場目線で生存確認ができない要因を一つずつ解決していく
保育現場での生存確認について、実際はどのような難しさがあるのか、読売ランド前どろんこ保育園(神奈川県川崎市)の午睡の様子を取材しました。
乳児リーダーである堤さんは、気を付けている点として「マニュアルでは5分ごとに体位確認とありますが、子どもが寝返りをしたらすぐに仰向けに戻すようにしています。たとえ午睡中に起きている子や泣いている子がいたとしても、子どもの命に関わる睡眠時の生存確認は優先しています」と話しました。
この日、生存確認を担当していた石塚さんは「保育者として子どもの命を守らなければならないことは常に意識しています。しかし、対応が重なると5分ごとの生存確認が難しく感じることもあります。その際はその場から離れず、電話で他のスタッフに助けを求めるようにしています」と言います。実際に、生存確認を行うと以下のような場面で困るそうです。
- 子どもが泣いてしまったり、お漏らししたりすると対応に追われてしまう
- 誰かが泣くと他の子どもたちも起きて泣いてしまい、収拾がつかなくなる
- 子どもが一斉に寝返りをうつと戻すことに時間がかかり、5分ごとの生存確認が難しい
こうした悩みについて、施設長の松久保さんは答えます。
「うつ伏せから仰向けに戻すと起きてしまうから体位を戻したくないというのはよく聞きます。泣いてしまうと他の子が起きてしまうこともあり焦ってしまうのですが、子どもが起きてしまうことよりも命を守ることの方が大切なので、起きてしまっても必ず仰向けにするよう指導しています」
寝返りの対応については「子どもは突然寝返りをするのではなく、寝返りの準備として足をクロスさせ、その後横向きになります。足がクロスした時にまっすぐ直し、優しくさすってあげると仰向けで寝る時間が長くなります。1ヶ月程度かかりますが、根気よく戻してあげると仰向けで寝るようになりますよ」とアドバイスします。
また、子どもの睡眠リズムがバラバラだと負担が大きいのも悩みの種。「入園当初は個々の睡眠リズムを大切にしますが、少しずつ園生活のリズムに整えていきます。バラバラと起きてしまうと対応に追われてしまうため、午前の活動内容を工夫したり、睡眠が短い子は後から寝かせるなどの調整を行い、子どもたちの睡眠リズムを整えることも大切です」と、松久保さんは話しました。
その他にも、一目で見渡せるような布団の配置、頭の位置をそろえることで胸の動きもすぐ見渡せるようにする、余計なおもちゃを近くに置かないなど、工夫できる点は多岐に渡ります。
現場育成だけではなく、施設長の育成やマネジメントが重要
いくらマニュアルを整えても、それが実際に運用されていなければ意味がありません。読売ランド前どろんこ保育園の施設長を務める松久保さんは、睡眠中の事故防止のために何より重要なのは施設長のマネジメントであり、ポイントは2つあると話しました。
1つ目は、スタッフの意識醸成。まず大前提として保育園は子どもの命を守ることが最優先事項であり、生存確認は何よりも優先されるべき重要な業務であることを共通認識として持たせます。また、どんなに経験が長いスタッフでもSIDSや死亡事故の経験がある人はほとんどいません。定期的な研修や実際に家族を亡くした方の経験談を聞く機会を設けることで、現実に起こりうることだと危機感を持たせます。
2つ目は、生存確認業務に専念できる環境を整えること。スタッフが5分ごとの確認、仰向けに直すことができないのは、さまざまな要因が存在し、具体的には以下のような例が挙げられます。
- さまざまな業務を抱えていることで生存確認に集中できない
- 残業を避けるために、合間に他業務を行い疎かになってしまう
- 動かすと起きてしまうので触りたくない
- 子どもが泣くとスタッフがかかりきりになってしまい手が止まる
- 足腰が悪くかがんでの確認が困難、スマホが見にくく操作に時間がかかってしまう
スタッフが生存確認に集中するために、施設長はこれらの要因を一つずつ取り除いていくことが必要です。
まずはスタッフが抱える業務状況などを見極めて、スタッフが生存確認に集中できる環境をつくります。スタッフは首からタイマーをかけて、誰から見ても専任者だとわかるようにします。午睡につくスタッフは極力一人にはせず、もし手が足りない場合でもすぐにヘルプを出せるような体制やスタッフ同士の関係性作りが大切です。そして、突然死は入園後2週間以内に起こることが多いため、特に注意を払うようスタッフに伝えます。事故防止には現場教育だけではなく、こうしたマネジメントや施設長の育成が重要であると言います。
どんなに素晴らしい保育も命あってこそ。命を守るためにできること
「保育園は子どもの命を預かる仕事です。園でどんなに素晴らしい保育をしていても、法人でどんなに素晴らしい理念があったとしても、子どもの命が失われたら何の意味もありません。保育士は本当に忙しい仕事なので対応するスタッフ個人の問題にせず、業務に集中できる環境作りや対応漏れがあった場合でも気が付きフォローができる体制作りなど、施設のマネジメントが重要だと考えています」
どろんこ会グループでは、施設運営が円滑に行われるよう本部を設置し、人事・労務管理、内部監査などのさまざまな支援を行っています。本部スタッフやスーパーバイザーが定期的に巡回し指導することで、各施設内で安全管理が適切に行われているかを施設の外からもチェックしています。このように、各施設での安全の取り組みと、施設外からの両軸で重大事故を未然に防いでいます。
今後も現場と本部が一体となり、子どもたちの安全を最優先に、安心して過ごせる保育環境の提供に努めてまいります。
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注釈
※1 赤ちゃんの原因不明の突然死 「SIDS」の発症リスクを低くする3つのポイント(政府広報オンライン)
※2 「令和2年教育・保育施設等における事故報告集計」(内閣府子ども・子育て本部)
※4 生存確認については、0歳児が5分に1回、1歳児が10分に1回行うことを基準とし、各自治体でルールを設けています。