児発・放デイでの性教育はどうしてる? 子ども発達支援センターつむぎ 浦和美園を取材
2025.03.27
どろんこ会グループでは、就学を控えた5歳児を対象に体と命の大切さを学ぶための性教育を毎年行っています。保育園だけでなく児童発達支援センター・事業所でも同様です。
今回は子ども発達支援センターつむぎ 浦和美園(埼玉県さいたま市。以下、つむぎ 浦和美園)の性教育の様子を取材しました。放課後等デイサービスもあるつむぎ 浦和美園では児童発達支援を利用する4、5歳児だけでなく、小学1年生から3年生にも性教育を実施しました。

4歳児から小学3年生までを対象に性教育を実施
過去に紹介してきたどろんこ保育園での性教育は2日間に分けて行うものです。5歳児が一つの部屋に集まり、1日目は絵本の読み聞かせを通じてプライベートゾーンについて知ったり、人体パズルを使い体の仕組みを学んだりします。2日目は命の誕生について知るために、胎児人形などに実際に触れます。

つむぎ 浦和美園の施設長の橋本さんは毎年、子どもたち一人ひとりの特性を踏まえたうえで、実施方法を考えてきたといいます。今年度は、いつもと違う活動にとても抵抗を感じる子や、発語はあるものの話の理解が難しい子などがいるなかで、どのようなきっかけ作りをすれば性教育に興味をもってもらえるだろうか、どうすれば自分で決めて参加できるだろうかをスタッフと共に考えながら準備を進めました。
そこで、4、5歳児に対しては皆を集めて一斉に行うのではなく、部屋の中を絵本、人体パズル、胎児人形のコーナーに分けることにしました。各々が興味をもったところに行き、必要に応じてスタッフが話しかけたり、質問に答えたりできるように用意しました。


性教育を通じて伝えたいのは命の大切さ
いきなり性教育の日を迎えるのではなく、実施の2カ月前から少しずつ時間をかけてゆっくりと伝えることも心掛けました。ちょうど出産を控えているスタッフもいたことから、生まれてくる赤ちゃんのことを話してもらう機会を設けることもできました。
また、耳からだけではなく、目からの情報が入りやすいこともあるため、子どもの人権に関する動画なども合わせて活用してきました。

橋本さんは「性教育を通じて伝えたいのは命の大切さです。自分のことを大事にしてほしいし、関わる人に対しても同じ気持ちでいてほしいと思っています。そのことを性教育の時だけではなく折に触れ伝えるようにしてきました」と振り返ります。

性教育の当日、コーナーを用意した部屋には、友達と誘い合って楽しそうに入ってきた子もいれば、スタッフと一緒に期待と不安の入り混じった表情で入ってきた子もいました。いざコーナーを見ると、人体パズルに夢中になり、男の子と女の子の違いに気づく子。静かに絵本に見入る子。だんだんと大きくなる胎児人形の重さを感じたり、髪の毛の有無に気づいたり、人形に話しかけてみたりする子、いろいろでした。「横向きに抱っこするんだよ」と友達に教えてあげていたのは、最近弟が生まれたばかりという子です。

その様子を見ていた橋本さんは「中にはいつもと違うことがあると部屋に入ることさえ難しい子もいるのですが、自然に部屋に入ってきましたね。安心できる人と一緒なら大丈夫と思ってくれたのかもしれません。性教育はその日限りではなく、日々の積み重ねで気持ちのハードルを下げていくことも大事だと思います。また、いつも大きな声が出てしまう子がいるのですが、この部屋ではそれがふさわしくないと感じ取ったのか静かにしていました。誰もそういうことをしていないことに自分で気づけたことが、人とのかかわりにつながっていくと感じました。また、人形ではありますが赤ちゃんの形や重さを体感したことで、大切に扱おうとする気持ちが子どもたちの間に自然に芽生え、赤ちゃんを大切にそっと持ち上げようと自分で考えて行動する姿を見て、スタッフがあえて伝える必要はないんだという気づきもありました」と話しました。
大事な自分の体のこと、自分で決められることを知ってほしい
午後になると小学校での授業を終え、小学生が放課後等デイサービスに来ました。皆でおやつを食べたあと、部屋に集まりました。

伝えたいメッセージは基本的に未就学児と同じですが、小学生は椅子に座って橋本さんの話を聞くスタイルです。
最初にホワイトボードに貼られた男の子のと女の子の体の絵を見て、「何が違うかな?」と問いかけます。「髪の毛の長さ」「おっぱいがない」「おちんちんが違う」など子どもたちから声が上がります。
そこに水着を着せて、「水着で隠れたところをプライベートゾーンと言います。それは見せてと言われても見せなくてよいところで、人にプライベートゾーンを触らせないし、自分も人のを触ってはいけないもの」と伝えたところ、
「なんで男の子はおっぱいを大事にしなくてよいの?」という至極まっとうな疑問が子どもから上がりました。
「大事にしなくてよいということはない。皆一人ひとりの体は大事。自分の体だから、触ってよいかどうかは自分で決めてほしいし、嫌なとき、触ってほしくないときにそれをきちんと伝えてほしい」と、橋本さんはゆっくり、丁寧に語りかけました。

話が終わると、胎児人形や人体パズルのある部屋に移動し、未就学児同様思い思いに胎児人形や人体パズルに触れる姿がありました。胎児人形を抱っこする際はどうしたらよいかスタッフが問いかけると、その重みを感じたのか頭は大事だからそっと置かないと、と言う子や、人形を実際にお腹に入れてみようとする子もいました。
命の重さを実感している子どもたちに「お父さん、お母さんからもらった大事な命だから大事にしてほしい」とスタッフは伝えていました。

橋本さんは「中には困ったときに自分の体をたたいたり壁にぶつけたりしてしまう子もいます。イライラしたときに相手を引っかいたりしてしまうこともあります。だからこそ自分を大事にしてほしいというのを繰り返し伝えています」と強調しました。
「からだの権利」を伝える性教育はまさに人権教育
国際セクシュアリティ教育ガイダンスや海外の調査において、障害児・者が性被害を受けることは多いとされています。
橋本さんは「障害のあるお子さんがこの先、性的なことをされたとき、断り方や答え方がわからないと、相手に受け入れられたと勘違いをさせたり、何も言わないから大丈夫と助長させてしまったりする可能性もあります。触られたくないときに『嫌』と表現できることは大事です。つむぎで信頼しているスタッフから聞いたことがあるという記憶があれば、言葉に出せるかもしれません。一方で全てが嫌ということではなく、愛し合っている相手の場合は違います。だから誰がどのように触ってよいかを決めるのは自分であることも伝えています。今回の性教育が頭の片隅に残っているとよいなと思っています」と語りました。

つむぎ 浦和美園では、性教育の実施について保護者会で説明をすると「自分ではなかなか話せないのでぜひお願いします」という保護者の声が多いといいます。一方、もし家庭で質問されたときには「ごまかしたり隠したりしないでください」ともお願いしていると橋本さん。合わせて子どもの人権についても保護者の方にも都度伝えているといいます。

つむぎ 浦和美園の性教育はまさに人権教育でもありました。橋本さんが「自分の体は自分だけの大事なものであり、誰がどのように触ってよいかは自分で決めることができる」と繰り返し伝えた背景には、国際セクシュアリティ教育ガイダンスのキーコンセプト4-2「同意、プライバシー、からだの保全」があります。「からだの権利」の意味を理解し、誰もがその権利をもっていることを認識できるよう学ぶことにより、誰もが自己選択・自己決定ができ、自分の尊厳が守られ、相手の尊厳も守らねばならないと知ります。それがまさに人権教育につながっているのです。
どろんこ会グループでは障害の有無にかかわらず、一人ひとりの子どもが自分を大事にできるように、そしてかかわる人も大事にできるように、この取り組みを続けてまいります。
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