新卒入社の保育士が提案 鶴見どろんこ保育園の箸作り
2021.08.05
「園長が決めたから」「毎年行っていることだから」といったトップダウン、前年踏襲の保育現場を変えていく。これはどろんこ会グループのミッションのひとつです。
そうならないために、スタッフ一人ひとりが常に「子どもにとって本当に必要な経験は何か」を考え、活動内容を提案できる仕組みがあります。
「年間計画プロポーザル制度」といって、例年1月ごろに次年度にどのような活動を行いたいかの企画提案書をスタッフ全員が提出、2月から3月にかけて各施設で2回「年間計画策定会議」を行い、配属スタッフ全員で話し合って決定するものです(以下の関連リンクも参照)。
これには保育士・調理師・栄養士・事務スタッフといった職種、正職員やパート・アルバイトといった雇用形態、園長・主任・入社1年目の新人といった経験年数に関係なく、さらには4月に入社する内定者も参加できます。
鶴見どろんこ保育園(神奈川県横浜市)では、今年4月に新卒で入社した保育士の松岡さんが、初めて自ら考え、提案した「箸作り」という活動を実施しました。
施設長、先輩保育士のフォローのもと初提案がかたちに
今回の活動を思いついたきっかけについて松岡さんは「自分が保育園児のころ、竹で作ったお箸と容器で流しそうめんを食べたことがあり、それを子どもたちにも体験してもらいたいと思って、提案しました。ただ、竹を入手するのは簡単ではないので、散歩先や園庭で見つけた枝で作れるかもしれないと考えました」と話します。
松岡さんの最初の提案は、散歩先で集めた木の枝をカッターナイフで削って箸の形に近づけ、やすりをかけ、ニスで塗装するというものでした。当初、カッターナイフの使用には危険が伴うので、個別で指導をしながら進めようと考えていました。そこに施設長の宮入さんからアドバイスがあったといいます。「施設長から『カッターナイフではなく、ピーラーでやったらどうかな』と聞いた時、私にその発想はなく、子どもの目線に立ち、どのようにしたらやりやすいかをもっと考えなければと思いました」と振り返ります。宮入施設長からはまた、箸に使用する木に毒性がないかどうか、ニスも口に入れても大丈夫かどうかなど、安全面でも念入りなフォローがあり、準備を整えました。
また先輩である主任の井上さんからは、子どもたちの作業場所についてアドバイスがありました。皆で一斉に作業を始めてしまうと、大人が全員を見ることができないため、子どもを待たせてしまう可能性がありました。そこで井上さんが提案したのは、木を削るチーム、やすりをかけるチーム、ニスを塗るチームと分けること。松岡さんもそれを受け、部屋や作業をするテーブルを分け、チームごとに大人を配置したことで、スムーズに行うことができました。
井上さんは「新しく迎えたスタッフにはのびのびとやりたいようにやってもらいたいので、ストップをかけないようにしています」と話します。「鶴見どろんこ保育園では、施設長はじめ皆、『●●だからできない』ではなく『●●をすればできる』というマインドで自ら行動し、後輩に背中を見せていきたいと思っています」という言葉から、新人保育士を温かく応援している様子が伝わってきました。
表現から食育へ 子どもの意欲をつなげる
子どもたちには「箸作りをしましょう」と号令をかけることはありませんでした。日ごろから枝をスプーンに見立てておままごとをしている子どもの様子を見ていた松岡さん。そのタイミングで、「この枝でお箸が作れるのでは」といった言葉かけを子どもたちにしていきました。すると、子どもたちがだんだんとさまざまな枝を持ち帰るようになり、それを見ていたほかの子どもたちも興味をもつようになりました。自分好みの太さや長さを見極め、すごい細い枝だったり、大きくて長いものをもってきたりと、様々だったといいます。
ピーラーで削るチームは最初、ピーラーの取り合いでもめていました。松岡さんは「子どもたちを強制的に止めてしまうと、せっかくのやりたいという意欲をそいでしまうのではと思いました。なので、順番で回そうという提案をしました。子どもたちが納得して作業できるようにかかわろうと考えました」と話します。その後は皆、順番がくるまできちんと待ち、集中して削ることができました。
やすりがけのチームも一生懸命です。触ってみると驚くほどつるつるに仕上がっていました。子どもたちは木の表面が変化していくのがうれしいようで、どこか誇らしげな満面の笑顔で枝を触らせてくれました。
松岡さんは活動している子どもたちの様子を見て「削りカスを集めてそれをスパゲッティに見立てて箸で取ったりしている子どももいたので、この先食べることへの興味にもつなげていきたいです」と意欲を見せました。次回は色をぬり、オリジナルの「マイ箸」作りに挑戦します。
子どもの主体性を育む取り組み
松岡さんは今回の活動のねらいを「自然物を使い、箸を作ることを通して、物作りの楽しさや物を大切にすること、食べることへの興味につなげる」としていました。どろんこ会グループが掲げている、「どろんこの子育てで身につく6つの力」においては「すべての人との関わりから判断・行動を身につける」「感じたこと・考えたことを表現する」につながっていきます。さらに宮入施設長は今回の活動について「6つの力に加え、子どもたちは木を拾い、削り、箸ができていく過程で、見通しをもってトライアルができたと思います。その見通しをもつには主体性が必要で、子どもたちの主体性を育むことにもつながったのではないでしょうか」と、松岡さんの取り組みを見守りながら話しました。
アウトドアが大好きでキャンプが趣味という松岡さん。「自然とかかわることができ、子どもの姿に合った活動が提案できるどろんこ会の保育はすごくいいなと思っています」と楽しそうな笑顔で話します。
保育士一人ひとりに様々な引き出しがあり、それを生かしながら保育できる環境がどろんこ会グループにはあります。